戦いの間にやるべきこと
「助かった……」
新兵達は中国軍の攻撃が収まって、ホッとしてその場にへたり込んだ。
だが、サミュエルは休むのを許さない。
「休んでいる暇はないぞ! 負傷者を後ろに運べ!」
急いで負傷した兵士を新兵達と連れて行く。
野戦病院に連れて行くが満床で座らせることも出来ない。
仕方なく地面に置こうとするが、サミュエルが止める。
「ダメだ! 地面に置くな! 直ぐに凍死する!」
冷たい地面に置いていたら、直ぐに体力を奪われて死んでしまう。
「木箱でも良いから地面から離せ」
弾薬の空箱を見つけ出し載せると衛生兵が駆け寄ってくる。
彼は口の中からアンプルを吐き出すと口を切って注射器に入れる。
「おい、口に入れておくなんて汚くないのか」
「こうしないとモルヒネが凍って使い物にならない」
衛生兵は手早く注射器にモルヒネを入れると注射する。
消毒もないが、仕方の無いことだった。
「おい! 直ぐに引き返せ。陣地の構築だ! 掘り上げろ!」
命令に新兵は愕然としたが、サミュエルは容赦ない。
「また手榴弾の雨を食らいたいのか! 直ぐに連中が来るぞ! 再構築しろ!」
攻撃前に少しでも生き延びられるよう準備を始める。
「おい! 中国兵からシャベルを見つけて来て使え」
「携帯型の折りたたみシャベルがありますが」
「そんなちゃちなのじゃ掘り返せない」
寒すぎて地表から三五センチ下の土まで凍結する。
携帯性を重視した海兵隊のシャベルでは堅すぎて歯が立たず壊れて仕舞う。
そこでサミュエル達は中共軍が使うシャベルを鹵獲して使用していた。
「少なくとも寝床を作って休めるようにしておけ!」
最低でも安眠できるように全身が入る蛸壺を掘らせる。
その時、上空から轟音が轟いた。
「おい! 輸送機の物資投下だ! 受領しに行くぞ! 残りは食事の用意だ! レーションを温めておけ!」
直ぐに陣地の中央に設けられた、かがり火で囲まれたドロップポイントに向かう。
包囲されて弾薬が不足している。
空中から投下して貰わないと足りない。
パラシュートの付いたコンテナに駆け寄るが、サミュエルは悪態を吐く。
「畜生! やっぱり潰れてやがる!」
パラシュートが付いていても三階から投げ落とすのと同じ衝撃がコンテナに加わる。
しかも大地は凍結しており固い。
コンテナが潰れて半分以上の物資がダメになることもある。
「仕方ない! 無事な分を急いで受領して持って行け」
使えそうな弾薬を持って帰るが、この中で寒さによる不発がないのは何発だろうか。
考えても仕方ないのでサミュエルは戻る。
「弾薬は受領した。食事は出来たか」
「今、鍋に缶詰入れて温めているところです。もうすぐ出来ます」
「良く温めろ」
「勿論です」
軽く答える新兵にサミュエルは顔を近づけて、ドスを効かせた声で言う。
「いいか新兵。よく温めない、中が凍った食い物を食べたらどうなるか教えてやる。そのまま下痢になってしまうぞ。この状況で下痢になるのがどんなことか想像できるか?」
新兵が想像して青ざめるのを見て、まだ足りないと判断したサミュエルは言う。
「出した物が凍って尻と肛門が凍り付いて凍傷になったらお終いだ。そのあと出す時、大変だぞ。それでも出せるだけマシだ。ズボンを下ろせず漏らしたらパンツと尻が凍り付いて剥がすのが大変だ」
「十分に温めます!」
中まで温めようと固形燃料を大量にストーブに入れて火力を強め、沸かして熱を通す。
熱くなった缶詰を取り出し、急いで缶切りで開き食べる。
中に凍った部分があったら、取り除き、食べる。
「よし、そろそろ眠るぞ。汗をかいた下着は取り替えろ」
ようやく眠れると新兵は喜び服を脱ぐ。
寒いが汗をかいた衣類を買えないと凍傷で死ぬ。
下着を交換すると寝袋に急いで入り眠ろうとした。
「おい! チャックは閉じるな!」
だがチャックを閉じようとした新兵はサミュエルに止められた。
「何故です寒くて死にます」
「攻撃があった時、直ぐに出られない。それにチャックが凍り付いて下げられなくなる。寝袋に入ったまま刺し殺されたいか?」
サミュエルに言われて恐怖に引きつった新兵はそのまま眠ろうとする。
だが寒くて眠れない。
寒さを我慢して、目を瞑る。
しかしそのような努力は直ぐに不要になった。
突如、銅鑼の音が響き渡ったからだ。
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