パットンの判断
補給の限界から朝鮮半島西側での反撃は不十分なものになるとパットンは判断している。
勿論、愛弟子であり勇猛果敢なウォーカーは隙を見て反撃するだろう。
しかし、決して無謀な攻撃は仕掛けない。
ウォーカーが攻撃してダメなら誰がやってもダメだとパットンは考えていた。
共産共産主義者共はこの後、停止して再度攻撃の準備に入る。暫くは止まったままだ。動くとすれば、攻撃を仕掛けていない東側だ。違う部隊を用意しているか、転戦させて準備をするだろう」
パットンの推論は軍事的合理性を満たしており、確かに妥当だ。
「しかし、証拠がなさそうですが。攻撃の兆候も見つけておりません」
「連中は欺瞞工作が得意だ。満州国内で必ず準備をしているはずだ」
パットンのいっている事は正しかった。
満州軍は旧日本軍の末裔であり、米軍の目を欺くために様々な擬装を施してきたため、見つけにくい。
共産中国軍は、ゲリラ戦を長年戦ってきており、こちらも秘匿が得意だ。
「既に介入している。準備は十分に整えているはずだ。そして我々は深入りしすぎて敵に近すぎる」
一〇月二五日に始まった攻勢は、百キロ以上の進撃が行われ一時は国連軍も三八度線以南への総退却を考えていた。
しかし、一一月に入り共産義勇軍の攻勢が弱まり、進撃が停止。
国連軍上層部は満州国と中国軍に本格介入の意思はなく、限定介入と考えた。
共産主義陣営は同盟国を見捨てないというポーズを見せるだけ、言い訳として少数の兵力、六万人程度の兵力を出しているに過ぎないと考えていた。
「奴らは必ず攻撃してくる」
だが、パットンは中国が本格的に攻めてきていると判断していた。
言い訳、負けるために戦うなどパットンの信条に合わないということもあるが、合理的な軍事指揮官として、戦うからには勝つという意思が強かった。
「それで半島東側からの攻撃に備えるのですか」
「ああ。東側の方がマシだからな。進撃もしている」
朝鮮半島の東側は良港が多く補給は順調だ。
敵の反撃がなかった事もあり、満州の国境近くまで進撃している。
それだけ、敵の反撃を受けやすい状況だった。
パットンも危惧していたが上層部は楽観的で後退の許可は出していなかった。
「そこで君たちにも来て貰いたい」
パットンは栗林に言う。
一度は朝鮮半島に上陸した日本軍が、日本政府の命令により、撤退していた。
上陸作戦とその後の進撃での損耗はあったが、補充と再訓練を完了し、戦力は元通り、いや装備更新もあって充実していた。
「政府の許しがなければ」
「ニミッツが日本政府に要請し承諾させた」
GHQが日本政府に増援を要請したのは事実だ。
そして政府内で混乱はあったが、最終的には合意した。
国連軍が瓦解し、再び朝鮮半島全域が北に制圧されれば日本への巡航ミサイル攻撃が再開されかねない。
再び日本軍を朝鮮半島に入る事を了承した大きな理由だった。
そのことに栗林も異論はない。
半島の戦局が悪くなれば日本にも悪影響が及ぶ。
戦線を安定させる為にも、半島への出撃は望むところだ。
「しかし、どうして私なんです?」
「君以上に信頼できる指揮官は居ない。それだけだ。命令なら下るように牛島に言う。だから来てくれ。君もだ西」
後ろにいた独立戦車連隊長の西に言う。
パットンは多くのアメリカ人と同じようにオリンピックメダリストの西のことを好ましく思っていた。
勿論、戦場での能力も評価しての事だ。
「そこまで言われては断っては武士の名折れ。行かせて貰います」
「ありがとう」
パットンは、馬を下りて二人に言う。
「ささやかな礼だ。フェバリット・アフリカは日本に渡そう。元はエンペラーに渡される予定だったものだ。日本にいる方が良いだろう」
フェバリット・アフリカはヒトラーが同盟国元首である昭和天皇に送るためにオーストリアで育成していた馬だった。
だが、大戦末期パットンの進撃が急すぎて、避難する前に捕まって仕舞いパットンが気に入り自分の馬にしてしまった。
「では、行こうか」
パットンは意気揚々と、万事用意の良い従兵ウィリアム・ミークスが用意した車へ、いや戦場へ向かって行った。
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