佐久田の対応

 佐久田は高木に稚内の後始末について説明を行った。


「稚内には第七師団を急遽投入し、戦線の安定を図っています」


 当初より北海道に配置予定であり編成途上の第七師団を動員し急遽防衛線の再構築を行った。

 稚内、北日本側も反撃が予想以上に上手くいき、戦線が伸びきっていたため、日本の反撃は成功。

 戦線を押し戻し、元の防衛線に戻った。

 それ以上は北日本側の守備が固く、進撃できず、自然と膠着状態となった。


「反撃は成功し、第五、第六師団が新たな防衛線を構築。戦線の安定に成功しました。第七師団も後方に下がって待機しています」


「となると、最大の問題は、今後どうするかだな」


「はい」


 佐久田は高木の意見に同意した。


「現在、我々は手元に、ほぼ無傷で実戦経験もある豊富な歩兵師団に海兵、空挺、空中機動の陸上兵力がある。それらは乗船しており、各所に投入可能だ。何処に投入するべきだ」


 朝鮮半島に派遣した兵力だったが、韓国側の反対により撤退する事になった。

 その後、北朝鮮軍と満州及び共産中国の援軍がやって来て反撃され、朝鮮半島は混乱状態だ。

 その混乱に付き合わされずに済んだ。

 中国大陸の方は、共産中国の侵攻が失敗して膠着状態。

 北海道の方は、投入された戦力が少ない為、自然停戦状態。だが稚内を攻め切るには兵力が足りない。

 この状況で手駒となった警察予備隊などの戦力、誤解を承知で言えば日本軍の戦力が何処にでも投入可能だ。

 米軍は朝鮮半島での反撃を受けて混乱しており、暫くはその対処にかかりきりになるだろう。


「このまま朝鮮半島は敗北するか?」


「いえ、義勇軍は北朝鮮に拠点がない状況でした。今回の攻勢は、北朝鮮に拠点を作るための攻撃です」


 佐久田の分析は間違っていなかった。

 今回の攻撃で奪回された地域は半島の西側、山脈の西の斜面だ。

 沿岸から遠く艦砲射撃の援護が少なく、艦載機が飛んでくるのにも時間が掛かる。

 攻撃地点としては良い選択だ。


「北朝鮮にある程度拠点を作る事が出来たら攻勢を開始するでしょう」


「補給はどうするんだ?」


「満州から鉄道でも引いているのでしょう」


「鉄道が使われている可能性は少ないと米軍より報告を受けているが」


「大方、鉄道橋が破壊されている事を理由に使用されていないと言っているのでしょう。先の大戦でドイツ軍は、破壊箇所がそのままに見えるよう偽装したり、夜間のみ繋げ、機関車を運用するなどして、バルジの戦いで奇襲する事に成功しています。今回の満州軍も同様の処置をとっていたのでしょう」


 佐久田の予想は当たっていた。

 崩れた鉄橋を放置していると見せかけ、夜間に架橋。

 トンネルに退避していた列車を走らせ、夜明け前、国連軍の偵察機が来る前に隠蔽する方法で北朝鮮内部に援軍と装備、大量の物資を運び込んでいた。


「じゃあ、再び攻勢が起きるか」


「あり得ますね。本格介入はないと思い込んでいる国連軍に対応出来るとは思えません」


 物量に優れる国連軍、米軍だが、物量をたたき込める戦場での話だ。

 彼等の輸送手段は船舶だが、朝鮮半島西側に良港は少ない。

 仁川ほどではないが、干満差が大きすぎて、陸揚げに向かない場所が多すぎる。

 使えるのは鉄道だが、両軍の攻撃で破壊し尽くされている。

 ならば道路だが、朝鮮半島の道路は日本植民地時代に多少マシになったが、自動車が大量に走行できるほど整っていない。

 現状の補給は、釜山もしくは時間をかけて仁川から積み下ろし、前線に何とか送り込んでいる状況だ。

 追撃戦で、大量の物資を消費していたり、部隊同士の間隔が広がっている。

 まして彼等がいるのは北朝鮮の領土内であり土地勘がない。

 しかも相手は予想以上に兵力を投入しており、国連軍の現有兵力では対応出来ない。

 立て直すには大幅な後退が必要だった。


「北側は、このまま攻勢を続行するか?」


「そう思いますが、東海岸でも動きそうです」


「どうしてだ?」


「満州国義勇軍の目的が満州国国境に国連軍を近づけさせないのなら、東側の戦線も押し返すでしょう」


 朝鮮半島は真ん中に山脈が通り東西に分かれている。

 東西間の連絡、師団以上の移動は不可能に近い。


「東側に部隊を移動して攻撃をかけてくる可能性が高いです。半島西側を奪回したなら東側へも攻撃を行い奪回に出てくるハズです」


「対策はあるのか?」


「単純な手ですが、あります」


 佐久田が伝えると高木は承諾し、GHQに献策した。

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