満州国が義勇軍を派遣した理由

 当初、満州国は参戦する予定など無かった。

 北日本、北中国、北朝鮮、いずれの戦争も各国の内戦であり、満州国が介入する事などない。

 せいぜい各国に物資や武器を売りつけバーターで資源を購入する程度で済ませるつもりだった。

 しかし、鎮南浦および元山上陸の時点から自体は大きく変わった。

 国連軍が創設され、極東で活動するのは開戦前の領域を回復するだけ。

 開戦前の勢力図、38度線で国連軍は止まると考えていた。

 だが、国連軍は38度線を越えて上陸、そして進撃。北朝鮮を滅ぼす勢いだ。

 これに満州国と北山は慌てた。

 北朝鮮を占領すれば満州国は韓国と国境を接することになる。

 現在の北朝鮮との国境に膨大な守備兵力を配備する必要が出てくるため、満州国に負担が掛かる。


「東アジアにおける共産陣営の産業国家として、国家経営上、韓国と接し国境防衛の為に掛かる多大な出費は看過できない」


 満州国参議府――大日本帝国枢密院を真似て作った満州帝国皇帝の諮問機関の席上で議員の一人である北山はそう主張して満州国の参戦を主張した。

 ここで東側を裏切って、西側へ行くことも考えたが、ソ連はいまだ強大である。

 共産中国にも囲まれており、包囲され孤立した状態では幾ら工業力があっても潰されてしまう。

 また日本が独立したとはいえ日米安保条約、日本国内の内乱に対して米軍の出動が許される条項がある不平等条約があっては、政治的な植民地と変わりない。

 さらにアメリカが勝ちすぎるのも問題だった。

 満州国を裏切らせた理由、東側の脅威を増すことで、重要地点である日本の価値を上げて、占領下から脱するという高木、北山の構想が破綻してしまう。

 アメリカに負ける、東側は脅威ではないと世界中とアメリカが考えてしまっては、日本の存在意義に疑念を生じさせ、抑圧が酷くなる。

 再独立を果たした日本だが戦争による国力低下の影響が大きく、アメリカの援助を必要としている。

 ここで東側が負けたままはダメだ。

 勝のは論外だが、負けるのも影響が大きい。

 接戦に持ち込んで膠着状態に陥らせるのが最良だった。

 これは、満州国にも同じ事が言えており、東西双方の盟主に自国が重要であると意識させる事が重要だった。


 そのため、北朝鮮を救うべく動き出し、ソ連に共同参戦を満州国は申し込んだ。

 しかし、アメリカとの直接対決を恐れてスターリンは拒否。

 満州国は自国の安全のために義勇軍を送ることを独自に決断し、参戦準備を始めた。

 早速、北朝鮮へ一部の部隊が半島西部へ進出し、橋頭堡を確保。

 作戦部隊の移動を開始する。

 正式な宣戦布告も検討されたが、満州本土が国連軍の空爆を受ける可能性があるため取りやめた。

 交戦している参加国より優れた空軍力を持っているが日本の二倍以上の国土を持つ満州が全ての領土を米軍の空爆から守る事など不可能。

 満州国を存続させている工業が無くなるのは危険だ。

 そして、満州は参戦国の武器工場として大量の武器弾薬を供給している。

 ソ連も援助しているが、シベリア鉄道で遅れる物資は少なく、ソ連自身の生産力も大戦の被害が大きく、小さいため量が少なかった。

 B29による空襲で交戦国、北日本、北朝鮮、北中国の工業地帯が壊滅した事もあり、日用品の生産さえ、東アジアの共産国は満州国の工場頼みの状況となっている。

 その満州国の工場地帯まで失っては東アジアの共産陣営は壊滅するため参戦は見送られ、対外的には義勇軍を送るだけとされた。

 しかし、その兵力は一五万と大きく、しかも多数の戦車、装甲車を有する機甲部隊で、補給用のトラックも装備し補給は万全だ。

 さらに、米軍の空軍力に対抗する為、戦闘機隊の出撃と自走防空車両、対空兵器を多数装備させた。

 そして、意外にも義勇軍には共産中国軍も参加していた。

 戦争により多大な被害を受けていた上、満州から大量の物資を受け取っていた。

 その代金支払いが限度額に近づいてきていたのだ。

 踏み倒しても良かったが、万が一、満州も国連軍に蹂躙された場合、工業地帯を失い共産中国は干上がる。

 支払い問題と、工業製品の購入先を失わないよう、八個師団を義勇軍として派遣する事を決定し動かしており、半島に入っていた。

 これらの部隊は密かに国境を越え、北上してくる国連軍を待ち構えた。

 この行動は、一部の情報機関や偵察機によって察知され、国連軍司令部に報告されていた。

 しかし、上層部は北朝鮮が崩壊する今援軍を出しても手遅れ、送られた兵力も五万程度の部隊で戦力的に低いと判断され脅威とされなかった。

 そのため一〇月二五日、満州国義勇軍が満を持して作戦行動を開始した時、それは奇襲となる。

 最初に遭遇したのは韓国軍第六師団第二連隊だった。

 機甲部隊を移動させるため東側は、主要な街道の確保を優先していたからだ。

 険しい山岳部に部隊を配備していなかった。

 ちなみに鴨緑江まで進んだ韓国第七連隊への攻撃はなく、小規模な襲撃を受けただけで後退する事に成功した。

 そのため機甲部隊の移動路、進撃路に位置していたパクの第二連隊が正面から攻撃を受けることになって仕舞った。

 周囲の山々を走り、戦線の隙間を通って浸透した抗美援朝義勇軍――アメリカに抵抗し朝鮮を助けるべく派遣した共産義勇軍は、ドラの音共に襲撃を開始した。

 突発的な事に混乱し、防御を固めたが、そこへ満州国義勇軍の機甲部隊が襲いかかった。

 そのため、パクは貧乏くじを引いてしまう事になって仕舞った。

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