国連軍への非難
佐久田の言うとおり朝鮮半島の地形は大陸に向かうほど山がちになり横幅が広がる。
各部隊は谷筋に分散する、しかも、その谷筋が多く、各部隊の連携がとれない。
佐久田はこの状況に危惧を抱いていた。
「この状況で兵力の引き抜きなど更なる分散を招きます。また、ソ連と満州の国境に近く。国境に近づけば緩衝地帯確保のために、どちらかが参戦する可能性があります」
「それは米国でも話されている」
大国同士が国境を接することは避けたい。
国境とは常に緊張し大小の衝突が起きている。
小規模な衝突がそのまま軍事衝突、全面戦争に繋がりかねない。
核を保有する米ソならば全面核戦争の可能性、特に兵力が劣勢と信じているの西側は核に頼った防御計画を立てている始末だ。
破滅的な戦争になりかねず、緩衝地帯として北朝鮮の存続を考えていた。
その事は国連軍の行動にも表れており、ニミッツが満州との国境から一〇〇キロほどに位置する進出限界線――俗に言うニミッツラインを設定し、それ以上の進撃を抑える様、命じていた。
「だが、李承晩は認めない」
大逆転に気を良くした李承晩は北の武力併合を声高に宣言し、北朝鮮の奥深くまで進軍するよう韓国軍に命令。
半島統一という悲願を持つ将兵達も奮起し前進し続けた。
ニミッツラインを越えて進撃したため、戦線に間隙が出来る事を恐れた国連軍が前進しなし崩しになって仕舞った。
ニミッツは激しく抗議しても李承晩は無視し、韓国軍も進撃を続行。
一部の部隊は鴨緑江に達して、その水を水筒に入れて李承晩大統領に献上。
気を良くした李承晩は、完全併合は間近だと言うほどだった。
「楽観しすぎです」
「そう思うが国連軍の内部でも戦線拡大への疑念が生じている」
「疑念?」
「三八度線を越えて進撃をしただろう。国連が決定した範疇を超えていると問題視されている」
国連での決議は現状の回復、それぞれの軍事境界線を元に戻すのみ。
日本、中国、韓国から北の軍隊を追い出すことだ。
なのに佐久田は軍事境界線の向こう側へ軍隊を送り出してしまった。
戦域を拡大すると内外に宣言しているに等しい。
「軍事的に妥当な作戦を実行したまでです」
「それは了解している。しかし国際社会に与える影響は大きい。現に北の三国が軍事境界線を越えての軍事行動は国際法違反、国連決議違反だと警告を発している」
「侵略しておいて白々しい」
「同感だが彼等の領土内に攻めているのは事実だ。そのことで国連軍が侵略軍だという非難が出ている」
「東側のプロパガンダでしょう」
「そうだ。だが、中国や満州国はこの事を重大事していて、国連の侵略行為に対して実力で反撃すると伝えてきている」
「ブラフでしょう。そんな兵力があるとは思えませんが」
「だが、見逃すことは出来ない。前線でも北朝鮮軍以外の兵士が見つかっているのだろう」
「はい」
前線が北へ行くにつれて、捕虜の中に中国兵と満州兵が混じるようになっていた。
佐久田はこれを大規模な支援だと判断し警戒している。
「国連軍は無視していますが」
だが国連軍の上層部は小規模な義勇兵、数万人を送り込んでいるだけ、戦力的に脅威にならないと考え、重大視していない。
最早北朝鮮は殆ど領土がなく、制圧目前。
この状況で兵力を出しても損害ばかりで無意味だと考えられていた。
純軍事的にも妥当な判断だ。
だが、佐久田はそうは思わない。
何が起きるか分からないのが戦争だ。
自分だって先の見えていた戦争の中、何とかしようと奔走し、米軍が予想していない重要地点を攻撃し機能不全を起こさせることで何とか帝国の命を救った。
結果、帝国を余計に苦しめただけかもしれないが、人間、追い詰められた時、何をするか分からないというのが佐久田の経験上、得た結論だ。
勿論、高木も危惧している。
「日本政府は侵略行為と名指しされている状況を重大視している。前の戦争と動揺に侵略国家とされて後ろ指を指されることを恐れている」
「安全補償の為に日本周辺に安定をもたらすのは重要だと思いますが」
「だからといって、戦火が拡大しては意味がない。中国と満州が半島の戦争に加われば危険だ。特に満州は拙い」
南中国と戦争をしている共産中国の兵力はともかく、東アジアの共産陣営の工業国家満州が参戦すれば大規模な戦力が提供される。
そのことを日本は恐れていた。
「戦域が拡大するのは君も不本意だろう。だから停止命令を出したんだ」
「ご理解いただけて有り難い。ですが、頭越しに停止命令は止めて貰いたい」
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