北朝鮮軍瓦解

 上陸した海兵師団が鎮南浦周辺を確保すると、すかさず佐久田は命令を下し機甲部隊は平壌に向かって進撃を開始した。

 上空を味方の戦闘機隊が乱舞し制空権を確保している。

 機甲部隊は順調に飛ばしているが、速すぎて後続部隊が追いつかないほどだ。

 後詰めは勿論、補給部隊、特に燃費極悪――最良でもリッターで数百メートル以下の戦車には頻繁に補給する必要がある。

 置いていくのは、危険だ。

 だが、佐久田は既に手配済みだ。

 彼らの進撃路の上空に尾翼に星が描かれた銀色の巨大な機体が現れた。


「B29です」


「予定通りだな」


 本土空襲を行った憎き敵機だが、今は味方であり頼もしい。

 そして彼らには佐久田の作戦に必要な重要な任務がある。

 低空で侵入したB29の編隊は、爆弾庫を開けると、次々に内部の物資、投下用コンテナを放り出した。

 コンテナの後ろに付いたパラシュートが開き、ゆっくりと降りていく。

 全てのコンテナが降りると、離れた場所でホバリングしていたヘリが投下地点へ急行。 フックをコンテナに取り付けて吊り上げ、街道沿いに設定された物資集積所へ運んでいく。

 その集積所へM26パーシングを始めとする機甲部隊が到着。

 コンテナに詰められていた燃料を補給して平壌へ向かう。

 反撃がある前に、内陸へ進撃し、首都を陥落させるのが目的だ。

 北朝鮮軍の反撃があっても、洋上兵力と機動部隊の航空隊で撃退する。

 川からも上陸用舟艇が遡上して部隊を輸送しているが、一番大きいのはヘリだった。

 進撃路の要所要所、橋や高台を陸上部隊に先んじて歩兵を下ろして制圧し確保する。

 北朝鮮軍の兵力は手薄だし、反撃があっても、航空機やヘリの支援、搭載した機銃やロケット弾による制圧があり、軽装備でも十分だった。

 トドメとして物資の空中投下で支援され、迅速に進撃した戦車部隊が駆け抜けて行き平壌へ進撃していった。

 北朝鮮首脳部は予想外の事態、別の場所への上陸と強大な戦車部隊の予想以上の進撃速度に混乱。

 平壌脱出を図った。

 しかし、手早く日本軍の空中機動部隊と第八二空挺部隊が平壌北方へ展開し、退路を断つ。

 南からは米海兵隊の戦車部隊が迫り、平壌にいた人々の殆どは逃れる事が出来なかった。

 残念ながら金日成を含む首脳部は捕獲できなかったが、北朝鮮軍の大半を捕捉し、捕虜にした。

 また、東海岸の元山へも警察予備隊の海兵旅団と第一師団が上陸を開始し、平壌へ突進。北朝鮮を南北に分断しようとする。


「ウォーカー! 好機到来だ! 直ちに進撃しろ!」


 パットンの命令で釜山橋頭堡のウォーカー中将率いる第八軍も反転攻勢を開始。

 予め釜山に上陸していた第一騎兵師団を含む米軍部隊四個師団を主力とする部隊が総反撃を開始。

 北朝鮮軍の包囲網を突破しソウルへ向かって突進する。

 最初は仁川上陸が失敗したこともあって北朝鮮軍内部の動揺は少なかった。

 だが、鎮南浦と元山への上陸、平壌陥落が陥落したことを聞くと士気は一気に落ちていった。

 当初こそデマだと政治士官は叫んだが、国連軍の宣伝放送、ビラまきを行い周知する。

 それでも否定したが、やがて退却命令と平壌から新義州への遷都が発表されると釜山橋頭堡の包囲は瓦解し、北朝鮮軍は雪崩を打って北へ退却していった。

 一方、国連軍は北朝鮮軍の撤退もあって順調に進撃を続行。

 航空援護もあって、快調に飛ばし、一週間で鎮南浦と元山の部隊が合流し北朝鮮を分断する。

 同時に、釜山の部隊がソウルに到達し仁川の救援に成功した。

 その間、仁川に上陸した韓国軍はねばり強く抵抗しており、米軍のソウル奪回でようやく進撃が可能となった。

 味方到着までの間、上陸地点を維持できたことは特筆に値するが、日本部隊の上陸を秘匿され、囮にされたことで韓国軍は李承晩と共に国連軍と日本への不信感を深めていった。

 上陸した日本の師団が朝鮮半島に駐在した経験のある旧軍人を中心に編成された事もあって地理に詳しく、占領統治は順調だのも不満と不安の原因だった。

 進撃が容易にする為に行われた人事であったが、李承晩には再び日本の侵略が行われていると映った。

 何より、日本の上陸と大金星は韓国のプライドを大きく傷つけ、作戦遂行に大きな瑕疵を残した。

 その影響は既に出始めていた。

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