仁川への肉薄

 国連軍の動きを見て白は理解した。

 自分たちが囮であることを。

 そして国連軍が韓国軍に知らせずに何かを仕掛けようとしていることを。

だが白に出来る事はない。

 与えられた命令を、味方の為に攻撃を続けるだけだ。

 腹は立つが、出来る事など他にないし、国連軍が何かをして、戦局をひっくり返すしか自分たちが生き残る方法はない。


「橋頭堡の確保に努めろ! 防備を固めるんだ」


 白は部下に命じて

 夜になっても北朝鮮軍の夜襲は続く。

 夜中になって引き潮となり、橋頭堡周辺は北朝鮮軍が包囲しようと回り込んでくる。

 干潟は歩きだと困難だが、T34などの装軌車両は走れる。

 跨乗歩兵と共に迫ってくる北朝鮮軍は脅威だ。

 バズーカで対応しているが、敵中に孤立した韓国軍は全周囲防御をするしかなく、更に劣勢に陥る。

 状況を打破するため白は仁川の後方へ集結しつつある北朝鮮軍への砲撃を要請する。

 だが、味方への誤射を理由に却下された。


「おかしい」


 白は違和感を感じた。

 韓国軍は沿岸部のみを確保出来ただけだ。

 いくら最大射程で放ち散布界が広がるとしても内陸へ向けて放った砲弾が、味方の橋頭堡に当たるはずがない。

 攻撃ができない理由、艦艇が他の場所へ向かった、と考えられた。

 国連軍の動きがおかしいことを考えても不思議ではない。

 しかし、白に対応する余裕など無かった。


「北朝鮮軍の新たな攻撃です!」


 続々と到着する北朝鮮軍の前に対応を迫られるからだ。

 引き潮から満ち潮へ戻ってきている。

 干潟から攻撃出来なくなる前に韓国軍を包囲して攻撃するつもりだ。

 仁川周辺には一万の守備兵力がいたが、李承晩の仁川上陸作戦の発言後は、北朝鮮も防備を固めていた。

 釜山橋頭堡から部隊を引き抜くと共に、北朝鮮本国からも増援部隊がやって来ていた。

 現地でも徴集兵――ソウル市民に銃を突きつけて志願させた部隊が編制され、前線に到着し攻撃を行った。

 同胞を撃つことを躊躇う韓国軍は苦しんだ。

 それでも白は交戦を命じた。


「陣地を維持しろ! 死守するんだ!」


 退却場所など無い。

 乗ってきた揚陸艦艇は遙か沖合だ。

 そこまで歩いて行くなど北朝鮮軍に撃ってください、と言うようなもの。

 逃げるにしても満ち潮を待つしか無い。

 そして次の揚陸でも人員と物資を満載した兵力が上陸予定。

 撤退する余裕など無いし変更すれば大混乱だ。

 このまま戦い続けるしかない。

 だが、上陸開始から二〇時間、最後の上陸作業から一〇時間が経ち、兵員に疲労が見え始めた。

 満ち潮で干潟が海で満ち始め、攻撃経路が限定されつつあったが、その分正面への圧力が凄い。

 韓国軍将兵の死傷者も増えており、前線を維持できない。

 あと数時間で揚陸作業、増援が来るが、持ちこたえられるか怪しい。

 北朝鮮軍に蹂躙される、降伏してもどのような扱いになるか考えただけで恐ろしい。

 そのためレッドビーチの韓国軍指揮官は、防潮堤を爆破。

 海水を仁川市内へ流入させ、北朝鮮軍の攻撃を止めた。

 韓国軍は高所に避難し、一息吐いた。

 だが、仁川市内の被害は甚大だった。

 報告を受けた白は、この後、どれほどの被害を、復旧に時間と予算がかかるか、想像しただけで頭が痛くなる。

 しかし考えている余裕はない。

 起きた事は仕方なく、北朝鮮軍の攻撃の前にはやむを得ない。

 満ち潮と共に再び上陸作業が行われたが、北朝鮮軍は狙い澄ましたように砲撃していき、被害は甚大だ。


「なんということだ」


 被害報告を受けた白は、天を仰ぐ。

 この状況になっては、国連軍が仕掛けている手に期待するしかない。

 李承晩は怒るだろうが将兵が助かるなら何でもやって欲しかった。

 そして願いは叶う。


「緊急です! 国連軍が、日本軍を主力とする部隊が鎮南浦と元山に上陸しました!」


「そうか……」


 報告を受けて白は、自分たちが囮に使われたのだと分かっており、動揺は少なかった。

 むしろ自分たちが救われたことに安堵感を抱いた。。

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