国連軍の動き

 仁川は世界でも有数の干満差が大きい場所だ。

 干満差は数メートルにも及び、海面は下がり、上陸用舟艇は海岸に近づけないどころか、揚陸作業中に陸に取り残され、放棄される危険がある。

 月尾島を確保するのは、仁川への上陸の為の拠点を確保する為であり、引き潮で増援が出せない間の支援拠点にするためだ。

 一回目の満潮の間に、確保しようとしたが、北朝鮮軍の抵抗は激しく、確保出来ない。

 やがて満潮が終わり、引き潮となる。

 月尾島は確保出来ていないが、スプルアンス提督は上陸機材を失う事を恐れ上陸作業中止を命じた。

 そのため、韓国軍の上陸部隊は月尾島に孤立した。

 逃げ場のない韓国軍は攻撃を続け損害が続出するも洞窟陣地へ侵入する事に成功する。

 だが侵入されても洞窟内での北朝鮮軍の抵抗が激しく制圧は遅々として進まない。

 しかし入り口付近だけでも確保できたため、仁川周辺からの北朝鮮の砲撃から逃れられる安全地帯を韓国軍は確保することができた。

 だが、それも一時的なものに過ぎなかった。


「こちら月尾島守備隊。資本主義者の侵略に抵抗するも負傷者多数、弾薬僅か、司令部区画を除いて制圧される。兵力少なく。陥落も時間の問題であると判断する」


 一個大隊で防備していたが、圧倒的な支援攻撃と二個連隊の攻撃を受け、地下陣地に籠もっても守備隊は損害が続出していた。

 正規の指揮官を負傷で失い、追い詰められた政治士官は、決意に一息おくと繋がっているか分からない無線で言った。


「これより自爆する。朝鮮民族万歳! 朝鮮人民共和国万歳! 共産主義万歳!」


 直後、北朝鮮軍は自爆。

 洞窟陣地が崩落して韓国軍海兵隊が生き埋めになってしまった。

 同時に地下区画も陥没してしまいを防御できるだけの安全地帯がなくなってしまう。  地上に残された韓国軍は北朝鮮軍の砲撃をもろに受ける事になってしまい崩落で出来た割れ目に潜り込んで耐えるしかなかった。

 白は味方の損害続出に焦燥をあらわにする。


「米軍に救援要請を出すんだ。兵力を増強する」


 硫黄島で上陸直後に損害が続出した時、兵力を増強して橋頭堡を維持した事例がある。

 何とか兵力を維持しようと増強を要請する。


「現在引き潮になりつつあり、揚陸作業は不可能」


 スプルーアンスと佐久田という日本人指揮官の連名で返答があり、却下された。

 新たな同盟国――実体は宗主国も同然だが――とかつて留学した先に断られるのは韓国の現状を端的に示している。

 流石に問題があると思ったのか、代わりに支援攻撃が行われた。

 大和の四六サンチによる艦砲射撃で北朝鮮軍の仁川周囲にある砲兵陣地を制圧する。

 流石に全てを制圧する事は出来なかったが、艦載機の空爆も加わり、月尾島への支援射撃は静かになった。

 その間に韓国軍は掩蔽、蛸壺を掘って砲撃に耐えようとする。

 批判の多い仁川上陸作戦だが、否定的要素は李承晩の愚かな宣伝によるモノであり、韓国現象兵の粘り強さは賛嘆に値した。

 彼らは北朝鮮の砲撃が降り注ぐ中、陣地を確保し続けた。

 引き潮と共に北朝鮮軍が月尾島を奪取しようと攻撃を加えたが、韓国軍は耐えきる。

 この状況下で夕方の二回目の満ち潮と共に第二波の上陸が開始され仁川周辺、半島本土への上陸 が行われた。

 白も月尾島に上陸し、部下と共に前線で指揮する。

 しかし高い防潮堤に阻まれ侵入できないところへ北朝鮮軍の攻撃を受け上陸は遅々として進まない。

 更なる増援を呼び込もうにも引き潮のため上陸再開は翌日だ。

 支援が行われないことに韓国軍将兵は苛立つが上層部は致し方ないことと諦めていた。

 上陸地点、自国の秘匿が絶対的な原則である上陸作戦において李承晩がラジオ放送で仁川上陸作戦を叫んでいたのだから。

 北朝鮮軍が守りを固めていても不思議はない。

 事実、北朝鮮軍は守備を固めていたし、増援も送っている。

 上陸開始後は、仁川周辺の兵力に移動命令が下り、応援が続々と陸上を歩いて仁川へ集結しつつあった。

 ならば他の地点へ上陸すればよかったのではないか。

 仁川への上陸を中止したとしても李承晩の名声が低下するだけ。

 李承晩が無理やりねじ込んだとしか思えない。それでもアメリカが支援を約束しなければ これほどまでの損害が出るはずはなかった。

 いや、他の地点へ上陸して北朝鮮軍を撃退してから仁川へ上陸しても良かったはずだ。


「何か行う気だな」


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