北日本の憂鬱

「傀儡日本の各地より上陸部隊が出撃しています」


 報告を受けた北日本首脳部は重い空気に包まれていた。

 吉田首相暗殺により講和とクロマイト作戦の阻止できたと彼等は思った。

 だが、南日本は万難を排して条約を締結し、作戦にさえ参加してしまった。

 総理の新憲法無効発言と旧憲法の復活、政府による新たな憲法の制定で国民の反発が大きかった。

 その不満を核にして国会へのデモに南日本に残置した実働部隊に最大限の動員をかけて日本政府の転覆を謀った。

 だが、特機隊の反撃を受け、実行部隊は壊滅。

 残った組織も壊滅状態となり、復活には十年以上の歳月が掛かると考えられた。

 期待した地方での革命も、農地解放により自作農となった農村では、与党支持者が多数を占めており、共産主義に加わる人間などいなかった。

 この状況下で日本は仁川上陸作戦への参加を承認。

 韓国は反発しているが、アメリカ軍に次ぐ実力を持つ日本が加わることはアメリカの意向であり、韓国が反対したとしても覆らなかった。

 かくして仁川上陸作戦は日本参加で決行され、日本、朝鮮、中国の北側諸国は大きな不利を抱え込むことになった。

 この責任を巡り北日本首脳部の水面下で激しい責任追及の争い、なすりつけあいが起きていたが、目下の事態に対応する必要があった。


「釜山からも船団の出撃を確認。仁川へ向かっています」


 釜山橋頭堡から韓国軍と米軍の一部が引き抜かれ、仁川に向かっていることも判明している。

 上陸作戦開始は間違いない。


「北朝鮮は?」


「釜山橋頭堡への攻撃に失敗。撃退された後、再編成を行いつつ、一部兵力を仁川へ移動させています」


 上陸作戦が行われる前に釜山を落とそうと、北朝鮮軍は総攻撃を行った。

 だが六月二五日の開戦以来、進撃を続けた北朝鮮軍は損失が酷かった。

 北朝鮮からの補充はなく、現地徴兵、韓国国内の韓国人を強制的に加え、機関銃で武装した督戦隊を使って突撃させる始末だ。

 そのような兵力が三分の一から半分を占めていては、作戦成功はおぼつかない。

 止めるように要請したが北用船は聞かず作戦を断行。

 案の定失敗した。

 ようやく、仁川の防衛を固めるため、部隊の移動を開始した。

 だが間に合うかどうか、微妙な情勢だ。


「釜山に残す兵力も多すぎる」

「釜山から国連軍が突進する可能性もあり、防御の為に兵力を残す必要があるとの

事です」


 釜山を早く陥落させたかったのは、橋頭堡となり、朝鮮半島への反撃の足場になる事を恐れての事だ。

 だから釜山攻略に固執したのであり北朝鮮の意見にも一理ある。

 事実、釜山橋頭堡に送り込まれた兵力の一部は、上陸作戦成功後、出撃し、北朝鮮軍を突破し上陸部隊と連絡をとり、包囲殲滅する予定だった。

 そのようなことを防ぐ為、攻撃を行ったが失敗しては防御に回るほか無い。

 だが、防御用の兵力も不足する事態だ。


「なんとしても、仁川上陸作戦は阻止してほしいものだが」


 溜息を吐くしかなかった。


「しかし、この部隊の編成はおかしいな」


「どうした?」


「日本軍の部隊編成がおかしいのです」


「おかしい?」


「はい、部隊の入れ替えを相当行っています。人事も刷新されており、隊長レベルが変わっています」


「妙だな」


 戦争中は、なるべく転属を行わない、特に大作戦の前は部隊の練度、連携が下がるので控える。

 あえて行うのはそれ以上のメリットがあるからだ。


「何か共通点はないか?」


「あります、いずれの指揮官も、帝国陸軍時代、朝鮮半島の師団か総督府に赴任した経歴があります。しかも、北部と南部ごとに分かれています」


「傀儡共は朝鮮半島に上陸するのは確実だな」


「ですが、船団の航行が遅いような気がします。仁川へ上陸するならもっと早く仁川沖へ行かなければ、先に上陸する韓国軍が孤立します」


「九州の港からも出ているのだろう」


「勿論、しかし間に合いそうにありません」


「これだけの作戦だ何か齟齬があるのだろう。問題あるまい。それより、稚内をいかに守り切るかが大事だ。傀儡の軍隊が半島へ行き稚内攻略の手を緩めてくれるなら十分だ」

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