国会占拠

「状況はどうだ」


「内部へ突入出来ません」


 直ぐに官邸から議事堂の裏側へ回った特機隊だが、攻めあぐねていた。


「横領品なのか、米軍の装備、銃器類を持っていて反撃してきています」


「やっていられないな」


 飯田は、占拠した国会内から盛んに反撃してくる武装した暴徒を見て呆れる。

 極東戦争は米軍にとっても青天の霹靂だった。

 また戦後の軍縮により、規模が小さくなった米軍の内部は士気低下も酷く、極東の駐留軍に回される兵隊の質は低かった。

 そこへ突如始まった戦争、分裂した国の内戦に関わるなどまっぴらごめんだった。

 アメリカが原因になっていたとしても一市民の彼等にとっては遠い別の国の出来事だ。

 なのに米軍介入する必要性を理解出来ず、自分たちが戦う理由が分からず脱走が相次いだ。

 小倉と青森で武装したまま集団脱走が起き、特機隊が鎮圧に出たのも致し方ない。

 だが、この二つの事件は大規模だったからこそ判明した。

 小さな事件、少人数での脱走、逃走資金確保の為に小銃を含む武器を売り払ったり、武器の横領が無数に発生しており、それらが左派の武装組織に流れることは必然だった。

 今回の騒乱に左派も全力を尽くしており、国会内に多数の武器を持ち込み、籠城していた。


「講和条約破棄!」


「安保条約粉砕!」


「承認を阻止するぞ!」


 議事堂内から銃声に続いてデモ隊のシュプレヒコールが流れる。


「国会を占拠して採決出来ないようにして条約を反故にするつもりか」


 条約は二カ国の承認で効力を発する。

 日本の場合、国会での承認が必要だから国会で承認させない、武力占拠して議決できない状況を生み出して、条約を反故にしようという算段だ。


「悪くない手だな」


 もしかしたら、デモ隊を操っている連中、北日本は占領軍、アメリカの介入も視野に入れているのではないか。

 日本を占領状態に置いておくことでアメリカが日本を占領しておきたいという野心を持っていると演出したい、アメリカを攻撃する材料にしたいのではないか。

 同時に占領に不満を持つ日本国民を増やそうという魂胆か。

 悪い考えではない。

 デモ隊の損害と引き換えに、いや、流血を喧伝することで日本政府への不信を国民の間に更に広めようという魂胆もあるはずだ。


「だが、そんなことさせんぞ」


「官邸から命令です。なんとしても国会の奪回と本会議開催が出来るよう確保せよとの事です」


「官邸も同様の意見のようだ」


 入ってきた通信を聞いて自分と同じ結論を得ている人物が政府の上層部にいる事をしり、飯田は少し安堵した。


「直ちに突入させますか?」


 坂下が尋ねるが飯田は首を横に振った。


「火力が足りない。内部へ突入するには、二階三階も制圧する必要がある。柵も邪魔だ」


 国会議事堂は、道路沿いに柵があり、その後に敷地、議事堂となっている。

 議事堂の建物は三階建てで、全ての窓からデモ隊の武装要員が銃を突き出し銃撃を浴びせてきている。

 幾ら重装備の特機隊でも、突入すれば失敗する。


「もう一個中隊、教導中隊も使うか」


 養成校の教官と学生を動員して編成される教導中隊を加えれば人員は更に増え攻撃力も増す。

 だが、飯田は首を横に振った。

 戦力的に不安はない。

 学生とはいえ、厳しい採用試験を突破しており、素質は十分。

 訓練未了でも教官と組ませれば戦力となる。

 だが、この教導中隊は特機隊の最後の予備戦力であり養成機関だ。

 ここですり減らしたら、人員の補充がままならなくなり、補充される人員は少なくなり、下手したら自然消耗して特機隊が消滅する。

 ここは自分たちの手持ちだけで行うしかない。


「航空小隊の援護の元、突入する。航空隊が出撃できる夜明けまでに柵を破壊。突入路を作れ」


「了解」


 特機隊は命令通り、周囲の柵を装甲車の体当たりで破壊し、突入路の確保に当たった。

 議事堂を占拠したデモ隊は盛んに銃を撃って妨害しようとするが、意に介さない。

 むしろ撃たせることで、弾薬の消耗を図っていた。

 そして夜が明けると、機体の下部に機銃を装備した航空小隊のR6ヘリコプターが飛来した。


『こちら航空小隊、遅れて済みません。状況は?』


「膠着状態だ。二個中隊が総掛かりしても落ちない。正面と二階三階を制圧してくれ。我々が連中をおびき出したところを攻撃してくれ。距離は置くが、気にせずやってくれ」


『了解!』


「全車両に通達! 攻撃発起点まで前進! 突入用意!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る