特機隊再び
羽田騒乱で起こした惨劇の責任を取らされ特機隊は活動停止中だった。
だが、事態の激変を受け、高木の進言もあり鳩山の命令により国家公安委員会を通じて謹慎が解かれ出動してきていた。
デモ隊の襲撃目標、憲法無効化宣言を出した総理を狙うと考えられ総理官邸を全力で守ることとし、待機していたのだ。
警視庁予備隊が壊滅した今、彼等は再び前に出てきた。
「第三突入小隊前進! 特科小隊も続け! 第一一小隊は後に続き、検挙者を確保! 第八小隊は待機!」
飯田の命令で特機は迅速に、しかし乱れる事無く動き出す。
低圧砲のみしか装備していない装甲車と特科小隊は、戦場では役に立たないと判断され残されていた。
だが、暴徒相手には有効だ。
車高が高いこともあり、装甲車はデモ隊を威圧しながら前進する。
横一線に並ぶ装甲車の前には、前衛隊員が多い第三突入小隊。
彼等が突入し機銃を乱射してデモ隊を制圧した。
機銃から放たれる弾丸の嵐にデモ隊は角砂糖のように崩れていく。
投擲爆弾を投げようとしたメンバーがいたが、大きく後ろに振った直後、狙撃手が放った一弾が頭部に命中し、爆弾は後ろ、仲間の中へ飛び込んで爆発した。
突如起きた大爆発にデモ隊に動揺が走る。
「総員降車っ! 突入開始っ!」
好機を飯田は見逃さなかった。
突入小隊が前進し、車両が後に続く。
その後を第一一小隊が続き、車両から降りた隊員が地面に倒れたデモ参加者を検挙する。
第三突入小隊は前衛隊員を掻き集めて編成していたが、第一一小隊は完全新規で予備要員がいないため、養成校の生徒を編入して作っており、練度に不安がある。
それでも後詰め、検挙者を拘束して護送したり、突入小隊が前進して出来た後方を確保するのに役に立つ。
「後方にデモ隊の一部が出現」
「予備隊が壊滅したか」
「いいえ、下水から出てきたようです」
「第四中隊を向かわせろ」
念の為に予備として第四中隊を呼んできて良かった。
編成されたばかりだが、古参と新人の組み合わせで、かなりの戦闘力を発揮できる。
新人でも厳しい試験の後、養成校で徹底的に訓練を施された精鋭だ。下手な機動隊より役に立つ。
装備、特に輸送車両が足りず、機動戦力に出来なかったが、官邸の防御など、移動不要なら活躍できる。
戦時中からできる限り予備を手元に置いておく習性――多大な部下の犠牲の上で身につけた思考が、飯田の指揮を、特機隊の任務遂行を手助けした。
侵入したデモ隊が少数だった事もあり、直ぐにメンバーはは制圧された。
デモ隊は官邸を目前にして特機隊の攻撃を受けて瓦解。
その間に警視庁予備隊が統制を回復し、警戒線を確保。
かろうじて官邸への突入及び霞ヶ関への突入は避けられた。
「飯田隊長。国会衛視および衆参議長より議事堂のデモ隊を排除して欲しいとの依頼があります」
「国会内に突入されたのか」
「はい、現在、デモ隊が建物を占領したようです」
都内、東側でデモを起こしていた連中も合流して霞ヶ関方面へ流れ込んだらしい。
警視庁の各署から部隊が国会の周囲に陣取り、侵入を阻止しようとしていたが拳銃程度しかなく劣勢。
デモ隊の勢いに抗しきれず、国会への突入を許したらしい。
国会は三権分立の一つ、立法府であり、行政府とは独立した存在。
行政の実働機関である警察は内部に入れず、独自の警備組織、衛視隊が守っている。
しかし、国会内のみの組織であるため、非常に小さく、人員は少なく衆参合わせて五〇〇名程度しかいない上、拳銃も装備していない。
国会内の警備のみしか役割を求められていない彼等が数万のデモ隊の対応など出来るはずなどない。
「警察予備隊は?」
「出動命令は出ていないそうです」
飯田は憮然とした表情となる。
決して国民に手を出さない。旧軍とは違うと言いたいのだろう。
だが国家を混乱させる行為を決して許す訳には、放置するわけにはいかない。
「血塗られた仕事は全て押しつける気か」
警察予備隊の考えを見抜いたが飯田は薄笑いを浮かべて言う。
「……良いだろう。我々が引き受ける。立ち塞がる者があれば、これを撃つまでだ」
総員乗車っ! 転戦するっ! の号令と共に特機隊は国会への転戦を始めた。
国会議事堂は総理官邸から目と鼻の先であり、徒歩でも移動可能。
官邸の警備を警視庁に任せて、特機隊は議事堂へ向かった。
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