何故日本国憲法を無効化したか

アメリカに対して戦争を仕掛けた日本を懲罰するために参戦したアメリカだが、日本のを解体した後の事、日本は勿論、アジアに介入する事も望んでいなかった。

 せいぜいアジアの事は中国国民党に任せるという漠然とした考えしか持っていなかった。

 だが、戦争中から中国の国民党は腐敗だらけで日本軍に勝てない上に、戦後になっても共産党さえ排除することが出来ない。

 何とか長江以南で政権を保てているのは、解体せず吸収した南京政府の統治能力と日本から購入する軍需品のお陰だ。

 アメリカは国民党に見切りをつけ新たな東アジアの守護者として日本を選んだ。

 だが、日本にアメリカ自ら与えた憲法で軍備を放棄させたため、実行力、軍事力が無く頼りない。


「だからアメリカは再び軍事力を与えようと、日本に憲法の放棄を求めたのだ」


「身勝手だ。押しつけたのはアメリカでしょう」


「連中はそんなものだ」


 アメリカは押しつけた憲法が欠陥品だと気がつき、放り捨てるつもりだ。

 制定に関わった連中は文句を言っているようだが、ニミッツはことごとく転属を命じて排除している。

 温厚なニミッツらしくないが欠陥品を作った、ミスを犯した部下を庇うほど優しくはなかった。


「影響が大きすぎますよ。憲法停止は現行法制の停止を意味しますよ」


「勅令で憲法より下の法令に関しては有効とする。あとは新たに公布する憲法で解決していく。これで混乱を最小限に抑える」


「しかし、やり方が強引すぎませんか?」


「俺がやらなくても誰かがやっただろう。その時、制定されるのが穏当で日本に役に立つ憲法になるかな」


 高木の指摘に佐久田は黙り込んだ。

 どっかの馬鹿が、首相になった時、ハーグ陸戦条約第四三条の事を知って勝手に憲法の無効を宣言して自分に都合の良い憲法を作る可能性がある。

 下手したら北日本以上の独裁国家になりかねない。

 その芽を摘むために、今回の高木のやり方は、穴を塞ぐ上では最高だった。

 案外、妙手かもしれない。

 共産党がやけに吠え掛かっているが、政権を取った時、自分たちが使おうとしていたのに政府に先を越されて、遠吠えを吠えているのかもしれない。

 敵の選択肢を奪ったという点ではかなり評価できる。

 だが、副作用が大きすぎる。

 しかし、起こしてしまった以上、収拾しなければならず、佐久田は頭を切り替えて善後策を尋ねた。


「この後どうするんですか?」


「大日本帝国憲法が復活する。そして陛下に緊急勅令を出してもらい、新憲法を成立させるよう勅令を出してもらい立案、発布する。新たな憲法は国民の権利関係はそのままだが非常時の非常時大権と自衛権を明記している物にする」


「結局、陛下頼みですか。終戦の聖断、いや2.26の青年将校ですか」


 結局政府内で終戦を決められず、継戦と降伏の半々に分かれた状態に持ち込み決断を求めた形にして、継戦派の顔を立ててようやく終戦となった。

 天皇一人に頼ったというの意味で日本は未熟と言えた。

 戦前から変わらない。

 日本の民衆の窮状を救おうと立ち上がった青年将校は奸臣を殺せても、天皇に成り代わり政治を行おうとは考えず、ただ天皇親政で全てが解決すると思っており、結局自らの命も心情も天皇に預けた。

 結局、日本というのは226の青年将校と同じで自分の大切なものを他人に預けてしまうのだ。


「そうでもない。憲法の制定は我々に一任される。私達で決めるんだ」


「ですが制定にどれだけ時間がかかるんですか」


 一から憲法をつくり上げるとなると時間が掛かりすぎる。

 国際法との兼ね合い、旧体制からの決別、国民の権利保護、国権の確保。

 各種調整を行う必要がある。

 下手すれば年末まで、いや、来年春になっても纏まりそうにない。

 憲法が出来る前に釜山が陥落してしまいそうだ。

 だが高木はすでに対策済みだった。


「既に草案は日本国憲法を立案している時、試案の一つにあったからな、それを現実に合わせて修正して発布すれば良いだけだ」


「すでに手回し済みですか、事実上のクーデターですね」


「これくらいは行わないとな。一気に問題は解決しない」


「しかし、全て政府の決定では国民、特に左派は反発しますでしょうね。今みたいに」


 外からの声、いや怒声を聞きながら佐久田は嘆息する。


「安保条約反対!」


「憲法廃止反対!」


「新憲法反対!」


「身勝手な政府を許すな!」


 総理の発言を受けてデモが呼びかけられ、首相官邸に集まっている。

 サンフランシスコ講和会議反対運動を恐れてデモの許可は出していない。

 だが、彼等は都内各所に分散してデモを行い、予め決められた範囲を超えて行進し、合流。

 特に発展し始め人口の流入が著しく混乱していた区部西側に集まり、永田町、総理官邸へ向かって行進を始めた。

 次期作戦の最終打ち合わせに来た佐久田も巻き込まれ、外に出られない状況だ。


「とりあえず、国会は置いておくとして、あのデモ隊はどうするんですか?」


 別に国会を蔑ろにしているわけではない。

 火が燃え盛る音が聞こえる。

 火焔瓶が使われたようだ。

 連中がかなりの武器を持っている事が深刻だった。


「下手したら内乱認定されますよ」


 安保条約では、日本の内乱、騒乱に対して米軍が介入することが許されている。

 下手をすれば入ってくる。

 いや、日本は国連軍の後方兵站基地であり、非常に重要だ。

 兵站活動に支障が出ると判断すれば、前線に物資を送れない恐怖を感じたGHQが勝手に出動してきて解散させられる可能性は高い。

 今は警視庁の警備部交通部の予備隊がデモ隊を


「大丈夫だ。既に対応する部隊は呼び寄せている」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る