半島派遣への日本の要求

 佐久田はハッキリとダレスに要望を伝える。

 東アジアの平和が大事なのは佐久田も分かっているし重要性も身に染みて理解している。

 だがそのために日本が干からびてはならない。

 繁栄か平和かどちらか片方選べではなく、日本の溜めには車の両輪のように両方必要なのだ。

その双方を得るべく、佐久田は要求をアメリカにぶつけた。

 日本の若者、あるいは戦争で生き残った者を死に追いやり、対価として金を得る、最低な行為だが、現状の日本はそれ以外に選択肢がない。

 補給基地として金だけ受け取るという選択肢もあるが、そのような弱腰など、本当に信用されない。

 ならば、これまでの戦争のように参戦することで最大限の対価を得ることを佐久田は決意していた。


「具体的には?」


 日本の姿勢、佐久田の決意に対しダレスは致し方ないと話を聞き始めた。

 勿論要求する立場なのだから、対価は必要だと常識人であるダレスは理解している。

 だが相手が求めてきていないのなら、支払う必要は無い、という考えもあった。

 要求されなければ、そのまま黙って働かせようと考えていたが、目の前の佐久田は言われたことを言われたままやる、軍人ではないようだ。

 交渉相手としては相応しい。

 聞くだけは、聞く。


「日本に対する輸出の制限をなくして欲しいですね。市場開放がなければ」


 現在、日本とアメリカのレートは一ドルが三六〇円の超円高だ。

 日本を買い占める事が出来る。

 だが逆に日本は格安でアメリカに製品を売り出すことが出来る。

 品質が良い日本製品ならばアメリカで販売すれば多大な利益を得られる。

 現在は戦争の経済制裁の影響が残り自由にアメリカに輸出出来ていない。

 外貨獲得の為に市場開放は是非とも必要だった。


「わかった。ホワイトハウスに要望を伝えよう」


「公表して頂けませんか?」


「計画を公表しよう。直ちに実施は無理だ。しかし、必ず実行する。」


 ダレスとしてはここが妥協だった。

 一応、対価として用意したラインはここまでだ。

 納税者を納得させる、日本製品が市場に溢れて米国産が売れなくなり有権者から不満の声を浴びせられるのは避けたい。

 やるにしても段階的にだ。

 しかし、日本の参戦を引き出したいし、その分は対価として支払うつもりだ。

 有権者は怒るだろうが、その有権者、アメリカの若者の命が救えるのなら安いものだ


「問題なのは仁川上陸作戦だがどうする?」


 更に問題なのは李承晩が訴える仁川上陸作戦だ。

 既に公言しているため、隠すことは出来ない。北朝鮮軍が守りを固める中、上陸するなど損害が大きくなり、失敗の可能性も高くなる。


「中止するか?」


 韓国大統領の妄言として却下することも出来るが、韓国民の信頼を低下させ得る事になりかねない。

 韓国は「恨の国」であり、一度恨めば子々孫々恨む。

 将来の合衆国の利益を出来るだけ損ねたくはない。

 しかし、実行したところで失敗する事は目に見えている。

 損害の補填が大きな負担になって仕舞う。

 中止した方が、良いとダレスは考えていた。


「それならば実行して問題ないでしょう」


「大丈夫なのか?」


 意外にも佐久田はアッサリと承諾した。

 作戦に投入されたら日本の部隊も上陸時に大損害を受ける可能性がある。


「一つ方法があります。GHQで承認済みです」


 佐久田はGHQで裁可された作戦案を提示した。

 内容に満足したダレスは直ぐに持ち帰りホワイトハウスに提出。

 そして国連軍の中で仁川上陸作戦が了承された。

 日本へもクロマイト作戦への参加が求められ、現地にいた鳩山、日本政府は了承した。

 上陸作戦はともかく米市場解放は非常に大きい。

 作戦が失敗したとしても、今後、数十年にわたり世界最大の市場に日本製品を供給し、外貨を、ドルを得ることが出来るならば、日本は経済発展へ満ち筋を付けることが出来る。

 総理をはじめ、随行員は喜んでいた。


「半島で泥沼に引きずり込まれたら、戦費で吹き飛ぶんだが」


 確かに、戦費以上の収入が見込めるが、作戦でその製品を作る若者が殺されてしまう。


「まあ、無駄死させる気はないが」


 損害を可能な限り、少なくとも仁川に上陸するより損害が減るように佐久田は計画を立てていた。

 同時に北朝鮮が崩壊するように計画している。


「だが、日本の部隊が参加できるだろうか」


 総理は安請け合いしていたが、戦争に対する国民の忌避感は大きい。

 現状はミサイル攻撃に対する不安と恐怖から認めているが、いざとなれば反対派が多くなる事があ予想される。

 特に、戦前から一貫して反戦を訴えてきた共産党など左派の野党に大きな支持が集まっているし、GHQの理想派が勝手に作り出して、前総理が乗っかり発布した憲法では侵略禁止、戦争放棄と戦力不保持を明記している。

 以上の条文から海外派遣は厳禁だという考え方が強い。

 それどころか警察予備隊や海上警備隊への忌避感も大きい。

 戦争で国民感情は変わりつつあるが、敗戦の記憶と結びつき、反対派が多い。

 憲法を改正する必要があるが、改憲には衆参で三分の二の議席を占める必要がある。

 そして与党は過半数は超えているが、改憲に必要な数を得ていない。

 これだけ戦争を拒絶する人々が、まだまだ多いという証拠だ。


「彼等が、今回の安保条約締結とクロマイト作戦参加を受け入れるとは思えないな」

 

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