ダレスの要請

「朝鮮半島に日本軍の派遣を」


 サンフランシスコのホテルの一室でダレスは佐久田に要請した。

 韓国軍、朝鮮半島の状況を考えればダレスの日本に対する要請は当然だった。

現状、兵力の余裕があるのは北日本軍主力を撃滅した南日本しかいない。

 南中国は、長大な長江の防衛線を抱えており、抽出する余力がない。

 しかも韓国軍内部の腐敗もあって、戦闘能力に疑問がある。

 信頼できる有力な部隊は日本軍しかいない。

 米軍も投入出来るが、米国の青年を失うなどアメリカの有権者の顰蹙を買うので極力避け、友好国に押しつけたい。

 そのような意志を感じていた。


「しかし、韓国が認めるかどうか」


 佐久田としても日本にとって、大陸からの共産主義の防波堤となる事を李承晩はともかく、韓国に期待しており、存続を願っている。

 だが最大の問題は韓国政府が反日姿勢を打ち出しており、日本に対して非協力的なところだ。

 そのくせ、亡命キャンプの建設を要請するなど、厚顔無恥な行為を行っており日本政府の心証も悪い。

 この状況をどう打破するかだ


「いくらでもやりようはある。韓国政府を黙らせることなど出来る」


 実際、韓国は米国の言いなりだった。

 アメリカの支援を受けて建国されたのであり、アメリカ政府の支援がなければ早晩崩壊する。

 事実、講和会議への出席を韓国は望んだが、戦争当事国ではない――韓国が建国されたのは終戦後であることを理由にアメリカは拒否した。

 戦後独立したベトナムの出席が許されているのに対して韓国への仕打ちはあまりに乗機を逸している韓国政府への米国の懲罰とも言えた。


「で、派遣するとして我々にどのような見返りがあるのですか?」


「アジアと日本の安全に寄与するが」


「かつての戦争は半島への侵略とされているのです。今回の半島への上陸は、侵略ではないことを示さなくてはなりません。大義名分と何らかの見返りが必要ですね」


 ダレスは痛いところを突かれた。

 アメリカの都合で日本に要請しているのだ。

 何らかの見返りが必要だ。


「アメリカの庇護を失う事が怖くないのか」


「その時はソ連を頼ります」


 ダレスの脅しに佐久田は屈しない。


 日本の立ち位置、不利な点と優位な点、日本が戦略的に重要な位置、アメリカの太平洋を渡った先の港であり交通の結節点であることを理解している。

 東アジアの要と言って良い。

 日本が離脱すれば、東アジアで戦う中国と韓国は補給を切断され崩壊。

 東アジアは東側の天下となる。

 日本が東側に付いたら、最早手は出せない。


「ソ連が信用できる国だと?」


「満州国の事例がありますから」


 日本が東側へ付く論拠の一つとなっているのがソ連の満州国の扱い方だった。

 東側陣営でありながら溥儀を皇帝とする立憲君主制を取っている。

 満州国でさえこの扱いなのだから、日本も天皇制が維持できる、という論法、期待が南日本にはある。

 北日本は君主制など共産主義に反する――自分たちの絶対的権力が確保出来ない、と抗議している。

 だが、スターリンが日本を手に入れるために、天皇制を重視する日本の心証を良くするため、あえて溥儀を皇帝にしている理由だった。

 そしてこの状況が南日本の米国への切り札となった。


「米国は信用できないと」


「互いに信義を尽くすことこそ同盟の根幹かと思います。一方的な強要と負担は真の同盟とは言えません」


 ダレスは黙り込んだ。

 敗北した国が何を言うか、という話だ。

 共産主義の脅威が無ければ、蹴散らしていた。

 だが、共産主義が広がるのを防ぐためにも日本の離反を防ぎ、協力を得ることは必要だ。

 米国が全てを負担することは出来ない。

 負担が軽減できるならある程度の譲歩、全てを負担した時より軽い金額で済むならいい。


「米国は支援額を増やす予定だ。資金提供をしよう」


 アメリカ政府は戦争拡大を覚悟し膨大な物資を調達する追加予算の承認は既に終わっていた。

 その物資の大半は戦場に近い日本で調達予定であり、支払われる予定の予算がある。

 今は発表を待つだけの状態であり、ダレスは、間もなく発表される、それを支援金と言って誤魔化そうとした。


「ダメです」


 しかし、佐久田は納得せず拒絶した。


「そうした一時的、戦争中の資金援助だけで済ませて貰っては困ります。将来ある若者に犠牲を強いるのですから。少なくとも彼等の未来が失われること、死んだ者、残された者も明るくなる条件を得たいのです」


 

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