サンフランシスコ講和条約締結

 1951年9月8日

 サンフランシスコのオペラハウスにおいて講和会議が開かれ、首席全権である鳩山一郎が署名して講和条約は締結された。

 これにより日本は正式に連合国との戦争状態はなくなり、独立国としての主権を回復する事になった。

 調印と同時に会場となったオペラハウスのポールに日章旗が掲げられ、日本の主権回復が明示された。


「素晴らしい光景だ」


 その様子を見ていた国務長官顧問のアレン・ダレスは満足な笑みを浮かべていた。


「戦争が始まった上、吉田が死んだ時はどうなるかと思ったが、無事に締結できて嬉しく思うよ」


「我々も締結できて嬉しく思います」


 佐久田は社交辞令で返した。

 互いにこれが儀礼的な事であることは百も承知だった。

 日本としてはなんとしても独立を回復したい。

 しかし、強大なソ連を前に日本が立ち向かうことなど疲弊した国力では無理だ。

 今の特需はアメリカの戦争支援があってのことだ。

 ここでアメリカが抜けては、立ちゆかなくなる。

 アメリカとしても日本への懸念はある。

 数年前まで熾烈な戦争をしていたのにいきなり日本を信用することは出来ない。

 同じアジア人同士で、東側と特に満州国と結託している可能性があると疑っていた。

 だが、他のアジア諸国に対して日本人が士脚持っていた優越感と、西洋崇拝、「エリート・アングロサクソン・クラブ」のアメリカ、イギリスなどの西側陣営に入る憧れを満たすことで忠誠心を満たすことで飼い慣らすことにした。

 地政学的に重要な位置にいる日本を西側から手放すことは出来ない。

 戦争が始まった今、日本軍の戦力も重要であり、決して手放せない。


「日米安全保障条約も締結できて嬉しく思います。これで太平洋に平和がもたらされる」


 再軍備は必要だが日本人を信じ切れないというジレンマを、安全保障条約によって、永続的に軍事的に日本をアメリカに従属させるという体制を構築することで解決した。

 これによりアメリカは日本国内に駐留軍として残ることが出来るし、南日本への武力侵攻があった場合、外国からの教唆による反乱が起きても米軍が出動できる体制を整えた。


「我々も米軍と協力して平和に貢献できることを嬉しく思います」


 同時に日本も、他国が日本に手を出せばアメリカが出てくる状況を作り出した上に、米軍に提供する為に、自らの軍隊を保持、増強する大義名分を手に入れた。

 事実、批判の多かった増強計画が順調に進んでいる。

 この状況を佐久田もダレスも理解していた。

 その上で、互いに有利になるように交渉を進めようとしていた。

 政治家の最終決断前に全てを詰めておこうという状況だ。

 日本の軍事指揮官とアメリカの外務当局者同士が顔を合わせているのは事実上の最高事務レベル会談。

「目下の焦点は極東で起きている戦争です。特に朝鮮半島が危険です」


「同感です」


 予想の範囲だったため佐久田は同意した。


「韓国は危機的な状況だ。釜山まで押し込まれ、危険だ。韓国が崩壊する危険もある」


 ダレスは戦争勃発前後で極東を視察しており主要国首脳と会談し、現地を視察している。

 その中でも、韓国が一番酷い事を理解している。

 そして日本が一番まともであり、有能であること、それだけに危険だということも理解して、交渉に臨んでいる。


「朝鮮半島に部隊をだしてもらいたい」


「稚内の占領はまだ先です」


「だが、現状の兵力は過剰だろう。攻城戦となり、包囲しながらの攻撃となっている」


「稚内攻略、攻城戦には膨大な兵力が必要です。拘置しておきたいのですが」


「移動のために部隊を乗艦させているのだろう」


「樺太上陸作戦のためです」


「国連では否決されたが」


「だとしても、増援を防ぐために、ブラフとして乗せています」


「ハッタリはよしたまえ、本当は韓国の重要性を理解しているのだろう」


 ダレスの言葉に佐久田は肩を竦めた。

 北山さんの言ったとおり、ただならない相手だ。


「そのような考えはあることは認めます。しかし、韓国は我々、日本の部隊が半島に介入することを認めるでしょうか」


 釜山に追い詰められてなお、李承晩は日本の武力介入を拒否しており、日本軍が上陸した場合、前線で回れ右をして日本軍撃滅を優先すると叫んでいた。

 しかしダレスはニンマリと笑って答えた。


「気にする必要はあるまい。日本軍の介入がなければ危険な事は韓国の誰もが分かっている」

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