情報戦と戦局
GHQの参戦、軍備増加要求に対して日本が屈していなかったのは、吉田首相が強固に反対していたからだ。
お陰で軍備の復活も妨げられており、出来た警察予備隊も内部統制の為に送り込まれた内務系官僚によって混乱している。
効率的に動くには専門家を配置するしかないが、
人事権は政府が握っており、軍部の暴走を防ぐために重要なポストは能力ではなく監視のために政府への信頼が篤い人物、能力が低くても与える。
しかも軍拡を阻止するために軍事的合理性を脇に置いて、監視、制限を多くしている。
結果、北海道での戦争で大きな混乱が起きた。
だが、吉田総理がいなくなり改善していく方向だ。
現に、首相代理の間に高木は警察予備隊と海上警備隊の人事を刷新、内部の規則も変えて戦いやすくした上に、成立した臨時予算案の分配を決めてしまった。
吉田総理暗殺により日本の継戦能力は高まった。
まるで仕組まれていたかのように佐久田には見えた。
「中々に洞察力が鋭いが証拠はないだろう」
「そうですね。情報を北日本に提供していたと見られるスパイは、関東治安警察特別機動隊に殺されましたし」
吉田総理暗殺の捜査は日本政府の威信をかけて行われ、徹底した捜査が行われた。
そして東側に吉田総理の居所を伝えていた内通者を発見し、特機隊が急襲した。
「酷いものだったそうですね、機銃でグチャグチャになったとか。荒事専門の連中を送り込んだら予想できた事ですが」
「抵抗が予想された。爆撃が失敗した場合、集めた武器で総理を襲撃するために武装して集結していた。これを撃破するために必要だった」
「予定通りですか?」
「どういうことだ?」
「いえ、やけに捜査のやり方が優れていたと思いまして。暫く経ってから吉田総理が生存しているという話が舞い込んできて上手く使ったなと」
吉田総理暗殺とその捜査によりいくつかの副産物が生まれた。
その一つが、捜査と欺瞞情報によるあぶり出した。
暗殺現場となった吉田邸は完全に破壊され、吉田の遺体さえ発見できなかった。
他の被害者も損壊が激しく、行方不明扱いになっている。
生存者も、重体の者が多く、包帯でグルグル巻きにされ病院に運ばれていった。
そのため、吉田総理が重体ながらも病院に運ばれ生きている、という情報が駆け巡った。
「収容先の病院を横須賀などに分散させ、それぞれ偽情報を流し、吉田総理が何処にいるか確認しようとした他国のスパイを一網打尽にしたそうじゃないですか」
極東戦争中の最中であり、アメリカに次ぐ有力国である日本の総理の生死は重要な問題だった。
容体を見極めようと東側は勿論、西側も探ろうと人を送り込んで情報収集を行っていた。
吉田総理が収容されたとされる病院に要員を送り、日本側の警備に見つかり捕まる、あるいは存在が発覚するスパイが多数にのぼった。
そして、流した情報を微妙に変えて日本政府内の内通者を見つけ出し、監視する事に成功していた。
「キャプテンでしたっけ? かなりのスパイを逮捕できたと喜んでいましたよ」
「状況を利用しただけだが」
「だとしても、あまりに周到すぎる。暗殺される事が分かっていて、予め準備していたみたいで」
「偶然の産物を結んで作っただけではないのか」
「でしょうね。証拠も証人もいません。真実は闇の中だ」
「真犯人捜しでもするのかね?」
「いえ、私は前線指揮官です。捜査関係者じゃない。それに今はこの先の事を考えなければ。襲撃の混乱で作戦部隊も混乱していますし」
吉田首相襲撃により、攻撃した潜水艦を追いかけるために一部の部隊を動かしたし、情報が錯綜して収拾するために、作戦能力が落ちた。
しかも東京湾周辺を機雷で封鎖されて、掃海が終わるまで物流がストップ。
稚内への物資補給に多大な影響が出た。
その隙に、北日本海軍が行動を開始。
手薄になった隙を突いて稚内へ輸送船団を突入させた。
半数を沈めることが出来たが、残りの輸送船で稚内守備隊への物資供給に成功し、稚内の防備は増強された。
「稚内を陥落させるには時間が掛かります」
「仕方あるまい。戦争は上手くいかないものだ。だが部隊の増強は出来るだろう。そのまま力攻めで落とせないのか?」
「兵力の多寡ではありません。あの沖縄戦の準備をした本郷中将が指揮する稚内の防御が巧みすぎます。下手に突入すれば、大損害を受けます」
「それほどか?」
「強攻策を使えば、損害は少なくとも一割は越えます。下手をすれば三割の死傷者を出します」
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