徳田球一

 黙り込む出席者の中で唯一統一戦線部長の徳田球一が発言する。

 徳田球一は沖縄の出身で、球一とは琉球一の人物になって欲しいと願い付けられた。正義感が強く人の為に立ちたいと医師を志し航行へ進学するがが学費が出せなくて退学。

 逓信省で働きながら夜間大学に通い弁護士となる。

 だが建国直後のソ連邦を訪問し共産主義者となり帰国後、日本共産党を立ち上げる。

 非合法だったため、治安維持法の適用を受け、逮捕され、刑務所に一八年収監される。

 その間、決して転向せず政府に対する怒りを溜めた。

 釈放されたのは終戦によって治安維持法が廃止され政治犯を釈放するようGHQが指示したためだ。

 当初は解放軍として占領軍を歓迎したが、労働者の権利確保の為計画した二.一ゼネストをGHQが命令を下し中止させたて以降は、反米となる。


「アメリカ占領軍は、完全にアメリカ帝国軍の執行者になった」


 以降、武装蜂起も辞さないの武闘派となり南日本で暴力革命を目指す。

 北からの武器援助を受け復讐を果たすために共産党の武装組織、中核自衛隊や山村工作隊を組織して、南日本において武力闘争を行うよう指示を出し、各地で暴動や武装蜂起を行った。

 当初こそ、警察力が弱く、一部では解放区を作り、自治まで行うほどの成果を上げた。

 しかし、治安警察の創設以降は圧倒的な火力を持つ特機隊により中核自衛隊などの実行部隊は壊滅。

 徳田は主犯として指名手配され、居場所がなくなり北日本に亡命した。

 北日本は亡命してきた徳田を統一戦線部長に任命し、残してきた徳田の配下を使い南日本への工作活動、破壊活動をさせていた。

 特機隊に実行部隊を壊滅させられても徳田の作った支援組織、連絡網や情報収集網は生きており、戦争中も有益な情報をもたらしていた。


「傀儡政権の首班吉田の近辺に同志がいます。彼を通じて吉田の動向は捕捉しています」


「吉田の居場所をしって、どうするのです」


「はい、間もなくサンフランシスコで講和会議が行われます」


 日本との講和を結び戦争を終結させる為の会議がサンフランシスコで始まる。

 そこで戦争は終わり日本の占領統治も終わり、独立を回復する。

 しかし、南の傀儡政権が独立することに西側に独立国として認められるのは北として面白くない。

 東側のみだが独立承認されており、日本唯一の正統な国家、残りはアメリカの傀儡政権という宣伝が出来なくなる。

 実際、南日本を傀儡政権として良しとせず、北日本に合流した軍人や軍国主義者も多く、彼等を中心に人民軍が出来た。

 そのような宣伝が出来なくなるのはいたかった。

 なんとしても阻止したいと北日本首脳部の誰もが思っていた。


「妨害するのですか」


「はい、吉田首相を暗殺します」


「暗殺ですか」


「はい、暗殺すれば日本は混乱します。講和会議も遅れるでしょう。さらに混乱の隙を突いて、稚内へ補給船団を送り込めます。また李承晩が声高に訴える仁川上陸作戦への参加もなくなり、北朝鮮やソ連に貸しを作る事が出来ます」


「ふむ」


 日本軍が仁川へ上陸する可能性は高いと北日本は見ていた。

 講和の取引材料として参加する可能性が高い。

 また、日本の安全地帯の確保、戦前のように大陸を支配しようと考えていると見ており、参加は確実だと見ていた。

 これを阻止できれば、北朝鮮に、貸しを作り、東側陣営で大きな発言力を手に入れられる。

 魅力的な提案だった。


「しかし、南の武力組織は壊滅しているのでしょう」


「そこは我々海軍が協力いたします」


 再び海軍作戦部長が発言した。

 そして、作戦内容が伝えられると、国家主席は頷いた。

 承認をしなかったのは失敗した場合の責任追及を恐れての事だ。

 成功すれば部下の功績を褒め称えれば良い。

 これで度量の深い国家主席を演じられるし、講和会議を潰し南日本の独立を遅らせる事が出来る。

 何ら問題はなかった。

 海軍作戦部長としても、ここで功績をさらに上げて、陸軍国ソ連の影響力が大きい故に陸軍と比べ何かと冷遇されがちな海軍の地位向上を目指したかった。


「お待ちください」


 反対意見を出したのは川勝外務大臣だった。

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