サンフランシスコ講和会議

 北日本をソ連が独立承認した対抗上、アメリカが日本を占領統治し支配しているという非難を避ける為に、日本が主権回復することはアメリカの至上命題となっていた。


「東側への対抗上、日本を植民地にしない、傀儡にしない事を示すためにも、アメリカは是が非でもサンフランシスコ講和会議を開催させようとするだろう」


 実際、大急ぎで戦争前にサンフランシスコで講和会議が行われることが決まった。

 一刻も早くソ連の非難材料を消すために、必要だった。

 勿論、日本のアジア進出で植民地を放棄する事になった欧州各国は反発している。

 だが、ここで米軍が占領を継続したら、東欧諸国にいる駐留ソ連軍が居残る理由が、悪辣な西側の侵略から同盟国を守る為、といって居残る。

 ソ連が北日本を傀儡にするために残すだろうが、その切っ掛けを与えて仕舞う。

 だからこそアメリカは講和を急いでいる。


「かなり強引ですね。ソ連の出席さえ怪しいのに」


 急な会議の上、アメリカ主導で行われる事に反発しソ連は、アメリカが日本に傀儡政権を作り出すためと言って、反発しており、出席しても調印しないと息巻いている。


「アメリカの都合で行われるからな。アメリカは日本との戦争状態を終わらせたいから無理にでも締結を図っている」


 そのためアメリカは西側だけで調印し、一方だけと講和、単独講和する事にしていた。


「ソ連と講和できないことに国民も反発していますが」


 東西冷戦に巻き込まれたくないという日本国民も多く、ソ連を含めた全ての国と講話する、全面講和を求める声が上がっていた。


「対抗して北日本と講和条約を結ぼうと画策しているようですが」


 アメリカの動きを見て北日本と講和条約を結び、戦争状態を事実上終わらせようとしている。

 これまで講和しなかったのは、急に独立させたため、事実上の傀儡政権のため手続きの必要性に誰も気がつかなかったからだ。

 しかし、アメリカの動きを見て、対抗する為にソ連も北日本と講和を締結する事にして、ウラジオストックで東側諸国を中心とした講和会議を開くことを通告していた。

 わざわざ、戦火が激しくなりつつあるウラジオストックで開催するのは、国連軍が近づいてこないように、日本海での軍事行動を講和を妨害するための示威行為だと非難する溜めだろう。

 東側の何時もの手だが、効果は大きい。


「ソ連と講和条約を調印できなければ戦争状態を終わらせられず無意味では?」


「いや、西側だけで戦争状態を終わらせる。日本が西側に入らざるを得ない。西側で地位を手に入れる絶好のチャンスだ」


 それほど日本の独立はアメリカには重要だった。

 ソ連への対抗以上に、工業地帯としての日本は魅力的すぎる。

 だからこそ西側に日本を留まらせるために、むしろ西側に入らせるために単独講和させたいのだ。

 日本にとっても、大きい対価だ。

 少なくとも敗戦国から西側の重要な国、東アジアで最有力の国となれるのだから。


「だからこそ、ここまで持ってきた吉田総理をクビにすることは不可能だ」


 そして、吉田は講和条約を纏めた功労者であり、ここで辞任されると講和条約の準備が止まり、講和会議の開催の遅延、最悪、注視さえあり得る。

 また、吉田が解任され、反米的な雰囲気になる事も、恐れていた。

 タダでさえ、GHQの占領政策が高圧的だと批判を浴びているため、日本政府に強い圧力をかけることを避けたいのが本音だ。

 そして吉田以外の人間、特に戦後のドサクサで解放された共産系、左派が政権を取ることを警戒しているアメリカは、抑えとして吉田を続投させるつもりだった。

 アメリカの心情、本音はどうであれ、今の状況で、吉田を下ろすのはリスクが高かった。


「少なくとも講和条約は結ばれる九月八日までは吉田総理だ」


「クロマイト作戦はその前です」


 佐久田は九月上旬を作戦予定日として準備を進めており、作戦参加部隊の準備も進めていた。


「後にはできないか?」


「無理です」




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