韓国の主張

「吉田首相、我が国への賠償はどうなっているのですか」


 対面早々、大使は不躾に吉田へ言ってきた。

 全権特命大使、国家を代表して相手の国家元首の下に派遣される人物で相応の儀礼が出来る人物でなければならない。

 にもかかわらず、韓国大使にそのような


「日本は植民地支配の賠償を行うべきです。過去四〇年の植民地支配の損害を精算して貰いたい」


 言いがかりだし韓国の身勝手な主張だが、切実だった。

 鉱物資源が豊富で、太平洋戦争前から工場が建設されていた朝鮮北部の北朝鮮に比べ、温暖な南朝鮮は農業が優先され、国民総生産は建国時点で韓国より北朝鮮が優位だった。

 そのため、韓国の国家運営は北朝鮮より困難、予算が不足気味だった。

 独立した直後の上行政機関が整っていなかった上、旧朝鮮総督府と関連機関を解体したため、行政の実施さえ困難だった。

 そして、米軍の無知と李承晩の無能が重なり、韓国の行政は混乱した。

 そのため人々は困窮し、当時起きていた共産系の活動、デモや暴動に加わる、彼等が支給する食糧を求めて加わる始末だった。

 このような状況下で国民の支持、日本への優越感を得るため、何より資金調達を目的に韓国は日本に植民地時代の賠償を求めていた。

 戦争が始まり戦費が嵩んでる上、国土の大半を占領された韓国の財政は余計に苦しい。

 今後の戦争費用調達のためにも、無理だと分かっていても韓国は日本へ賠償金を支払うよう要求しているのだ。

 勿論、日本が韓国の言い分を認める訳はない。

 もし日本が認めたとしても国際社会、正確には欧米諸国が認めない。

 植民地への賠償を認めたら、欧米諸国が領有していた、かつての植民地から同様の要求が求められる。

 日本はほんの四〇年しか朝鮮半島を支配していないが、欧米の場合、百年、中には四百年近くも植民地を保有していた国もある。

 天文学的な金額になることは簡単に予想出来る上、第二次大戦で国力が衰退している、本国に大きな被害を受け復興しなければならないヨーロッパ諸国は財政難であり、支払える訳がない。

 以上の理由により万が一、日本が同意しても、国際社会、正確には有力な欧米諸国が阻止に入る。

 韓国の意見が通るはずがなかった。

 勿論、日本も馬鹿ではない。

 賠償する代わりに植民地時代、朝鮮半島に投資した費用、韓国と北朝鮮が保有しているかつての日本の資産、工場やダム、水路、鉄道、港湾施設など勝手に接収した資本の代金を支払うのと引き換えにするなら話は別だと話していた。

 だが、とても現状の韓国が支払える状況ではない。

 払うつもりはないが、認められないことを承知で主張している。

 こうして日本に対して物言いをしている姿勢を見せることこそが、李承晩大統領の宣伝工作であり、韓国の主張を受け入れない日本政府が悪い、と日本に責任転嫁できるわけだ。

 それ以外に韓国に出来る事がないのだ。

 勿論、日本も知っていて対応する。


「その主張は日本として受け入れられません。また、そのような状況ではありません。お互いに戦争で大変ですから」


「その戦争ですが。日本軍が朝鮮半島に上陸すると言う計画が立てられていると聞いておりますが」


「日本軍は先の戦争で解体されました。韓国を侵略する兵力などありません」


「しかし、警察予備隊という軍隊が作られているではないですか。名前が違っても旧軍の軍人もアメリカの装備も保有している。そのような恐ろしい軍隊が再編され、再び我が邦を侵略し植民地にしようとしているのではないか」


「我々はそのような事はしません。しかし、アメリカからの要請では仕方ありません」


「アメリカからの要請?」


「はい、今度行われる仁川上陸作戦にどうしても日本の部隊を必要だとGHQより要請が来ています」


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