米軍戦力の不足
ニミッツの言うとおり、米軍のみでクロマイト作戦を敢行するには兵力不足であった。
稚内を陥落できなかったとはいえ、天塩海岸上陸作戦により北日本の戦力がほぼ壊滅した今、北海道は安泰と言える。
警察予備隊の増強も行われており、北海道は日本に任せて大丈夫だ。
極東に配備された米軍の戦力は第八軍の五個師団、歩兵第七、第二四、第二五師団、第一騎兵師団、第一海兵師団。
更に増援として本土より空輸されてやって来た第八二空挺師団。
以上六個師団が現在極東に配属されている。
そして、増援輸送体制が整った現状、毎月一個師団が米本土からやってくる。
イギリスからの増援も来援しつつある。
一見、米軍および国連軍戦力の充実ぶりは見事であり、日本の部隊がいなくても大丈夫なように見える。
李承晩が、日本の部隊など不要、米軍のみで大丈夫だと声高に言ったのも、根拠が無いわけではない。
だが、当事者である米軍、ニミッツの観点は違う。
北海道、朝鮮半島、中国大陸の三箇所で行われている戦争を戦い抜くには現状でも、将来においても不十分な兵力だ。
特に中国大陸は広大であり、兵力が足りない。
出来る事なら派兵したくないが、国民党が劣勢に立たされれば、行かなければならないだろう。
しかし、そのための戦力は十分とはいえない。
第二次大戦当時の戦力から比べれば極東いや太平洋の米軍の戦力は微々たるものだ。
強大なソ連がバックにいる事、ソ連の参戦も念頭を考えれば、不十分と言える戦力だ。
なんとしても増強する必要、それも訓練が行き届いた戦える部隊が必要だった。
「短期間で終わらせるには、戦場で圧倒的に優位に立つには足りません」
戦争において十分な兵力など供給される訳ではない。
そのため、使える戦力はできる限り集め使うのがニミッツの方針だ。
「戦争を早く終わらせたい。そのためにも日本軍には参加してもらいたい」
極東においてアメリカの支援があるとはいえ、日本の戦力は最有力の戦力を持っている。
現状でも六個師団十二万、更に増強が実行される予定があり兵力に余裕がある警察予備隊。
そして大和以下、有力な艦艇を有する海上警備隊の参加をGHQは求めていた。
陥落寸前である釜山橋頭堡を持つ朝鮮半島への迅速な増援が必要とされており、米国とGHQは日本のクロマイト作戦参加を求めていた。
そこには合衆国将兵の損害、合衆国の未来を作る若者が失われるのを避ける為に日本に肩代わりさせようという魂胆もある。
勿論、純粋に軍人として勝利を得るために可能な限り戦力を集め勝率を高め、戦争を早期に終結させようという考えもニミッツは持っている。
その意味で日本の参加を強く求めていた。
しかし、吉田は慎重であり、作戦参加に反対だった。
「日本は先の大戦の悲劇を、再び海外へ軍を進めアジアに災禍をもたらすことに反対しています」
吉田の本音としては、ようやく戦災によって破壊された本土復興がなった今、海外へ派兵して再び疲弊したくない。
北海道の戦費だけでも莫大なのに、朝鮮半島に送れば更に軍事費が掛かる。
それを嫌がった吉田は、国民の論調を盾にニミッツに反対する。
「国内ならともかく海外へ、外征を行うなど賛成しないでしょう」
ニミッツも理解しているし日本国民の反発は避けたい。
人間としてではなく軍人、国際政治家としてだ。
今、東アジアの戦争を支えているのは、前線で消費される物資を供給しているのは日本の工場群だ。
その労働者である日本国民の反感を買い、ボイコット、ストライキが起きれば前線への補給が止まる。
米本土からの補給もあるが、太平洋横断ではコストも掛かるし、時間も掛かる。
戦争を維持する為にも日本国民が反発するような政策をとることは出来ず、ニミッツは慎重に、日本への派兵要求を出すことは控えていた。
一週間前までは
「しかし、それも変化しつつある。日本国民は半島への出兵を望みつつあります」
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