国内外の反対
日本への参加要請、海外派兵を求める声は軍事的には当然のことだった。
東アジアでも有数の陸海空の戦力を有し、自由に使えるのが日本の部隊だからだ。
また手放したとはいえ、かつて朝鮮を統治していた経験、軍事行動を行い半島を知っている日本が動いてくれれば心強い。
その意味でも日本には作戦にニミッツは参加して欲しかった。
「米軍は十分な数がいるでしょう」
「戦場が広すぎて米軍のみでは兵力が不足しています」
ニミッツは、現状を率直に伝えた。
勿論、アメリカは、この戦争に負けないために、西側の盟主として、全力で参加している。
米軍参加はその一環であり、戦争に勝つという決意を内外に見せつけた。
だが、太平洋戦争後の軍縮で部隊は著しく減少しており、開戦時に苦戦している上、その影響は今も続いている。
米本土からの増援が届きつつあるが、稚内での戦闘で貴重な戦艦を含む水上艦艇を失い戦力的に心ともない。
元々、極東で行われている戦場が広すぎる事もあり、兵力は幾らあっても足りない。
アメリカは日本に是非クロマイト作戦に参加、海外へ派兵して欲しかった。
だが吉田は尚も反対した。
「しかし、日本はかつての侵略の二の轍を踏むことを躊躇っております」
ニミッツは顔をしかめた。
GHQの改革により、戦前の日本の軍国主義、アジアへの日本進出は侵略であったと教育している。
日本が再びアメリカと敵対しないように、四島に抑え込むための政策だ。
その成果は上がっており、敗戦と空襲の苦しみもあって、軍事に否定的な日本人が増え、一大勢力となっている。
そして彼等が海外派兵への反対派となっていた。
この状況で日本国憲法上の観点から軍隊ではない武装集団を参加させる。
まして海外派遣など侵略と同義だという論争が開戦初頭から激しく国会内で巻き起こっていた。
稚内方面が一段落し、兵力の転用、雲行きの悪い朝鮮半島へ増援として送るのではないかという話が流れてきた途端、国会内は海外派遣は是か非か、左右分かれての大論争となっていた。
占領下とはいえ、独立を控えた日本にGHQが強権発動して参加させる、数隻の掃海艇ならともかく、十数万の将兵を出すとなれば、日本の議会、政府に賛成してもらう必要がある。
教育部門が勝手にやったこととはいえ、GHQの司令官であり、責任者であるニミッツはその尻拭いをしなければならない。
今後の日米関係、日本に積極的に協力してもらうためにも日本のトップ、総理である吉田を説得する必要がニミッツにはあった。
「しかし世界の平和のためになることです」
「危険な論調ですな。日本はかつてアジアの盟主だと言って中国と、そしてアジアを侵略した。また同じ事の繰り返しとなりそうです」
「ですがアメリカも世界も望んでいます」
「しかし、全ての国が賛成している訳ではありません。特に派遣先が反対していては、平和のために部隊を送ったとしても後々まで禍根となるでしょう」
日本の海外派兵に反対しているのは日本だけではない。
韓国政府内で日本軍を上陸させれば再び韓国は日本の植民地となる。
戦況が悪いにもかかわらず、声高に日本の帝国主義を喧伝し、強く派兵に反対していた。
「韓国大統領からは、日本が半島に上陸した場合、北朝鮮軍との戦いを止めてでも迎撃するといわれております」
吉田の言葉にニミッツは頭痛を覚えた。
李承晩は声を大にして日本の派兵に反対している。
今の言葉も本当に言っている。
亡命生活が長くアメリカの政府高官との友好関係だけで韓国初代大統領となった李承晩は政治的能力が皆無であり常々権力維持のために反日姿勢を取っていた。戦局が劣勢の今でも一貫性を保つべく声高に日本の半島上陸に反対していた。
「米軍だけで十分でしょう。部隊の増強が行われている」
「確かに増強は行われています。しかし戦争に勝つには、まだ戦力が足りません」
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