巡航ミサイル攻撃

 後方支援基地である日本。

 ここが混乱すれば、釜山の韓国軍は物資が届かず瓦解すると北朝鮮の首脳部は考えたのだ。

 しかし北朝鮮軍の空軍は国連軍いや米空軍の圧倒的な戦力を前に壊滅してしまっている。

 日本へ攻撃を行える航空機など皆無に等しく、あったとしても一機や二機では与える損害は雀の涙だ。

 そして戦略爆撃は繰り返すことで成果を得られるが、損害も甚大であり、繰り返すほど消耗し、機体もパイロットも失う。

 特に、創設間もない北朝鮮軍にとってパイロットはあまりにも希少すぎて消耗させる訳にはいかない。

 そこで注目されたのが、対日攻撃用に大量に備蓄されていた巡航ミサイル<復仇>だ。

 日本国民の共産主義への信頼を損なわないよう攻撃を控えるようにソ連と北日本から使わないよう要請されていた。

 北朝鮮も韓国との違い、日本国民に北朝鮮は反日姿勢取らないように見せるため、開戦直後に巡航ミサイルを使わなかった。

 しかし、国連軍が参戦し、戦線は膠着。

 しかも日本が国連軍の後方支援基地となっている今、そのような配慮など吹き飛んだ。

 使えるものは何でも使って戦争に勝つ。

 日本国民の心情など勝った後でどうにでも出来ると北朝鮮の首脳部は考え、巡航ミサイル攻撃を決定した。

 早速、元山から<復仇>と名付けられた巡航ミサイル――ソ連が日本本土攻撃用に建設したミサイル施設より発射され、釜山及び日本各地に放たれた。

 釜山に一万発以上撃ち込まれたが、日本にも大量に打たれた。

 特に、物資の積み出し港として指定された下関と門司には数千発が放たれ、一時港湾機能は停止した。

 下関だけでなく、工業地帯を中心に関東、関西に飛行爆弾が飛来。

 第二次大戦以来の空襲に国民は恐怖のどん底に陥った。

 空襲を阻止できなかった日本政府に非難の声が上がった。

 そのため、日本政府は警察予備隊航空部隊に迎撃を命じ、千歳にいた航空隊の一部を日本各地へ転換。

 迎撃に当たらせた。

 松本率いる天風飛行隊は小松へ派遣され、迎撃任務に就いていた。

 巡航ミサイルを発見して、後ろに回り込み、ロケット弾を発射する。

 機銃攻撃は危険だ。

 一トン近い爆薬を有するため、爆発したら機体が巻き込まれる。

 かといって第二次大戦のように翼端で飛行爆弾を叩く事も出来ない。

 その戦訓を生かして、<復仇>にはジャイロスコープに仕掛けがしてあり、機体が一定以上傾いたり衝撃が与えられると自爆する仕組みだ。

 実際、当初迎撃にあたった米空軍戦闘機が大戦中のイギリス軍のように翼端を引っかけて傾け墜落させようとした。

 だが、機体の傾きを検知したミサイルが自爆して巻き込まれる悲劇が起きている。

 結局、離れた後方からロケット弾を多数発射し、離脱して飛行爆弾を破壊するのが一番のやり方とされていた。

 ただ、自爆機能を利用して、ロケットや爆弾などをミサイルの片側に投下して爆破。ミサイルの姿勢を崩して自爆させる戦法がとられた。

 しかし爆弾の調整が難しく、出来るのは一部の先の大戦参加者、B29相手に対空爆弾を落としたことのある人間だけだ。

 慣れた人間には、まっすぐ飛ぶだけの<復仇>の迎撃など楽であり、撃墜数稼ぎに利用されていた。


『天風へ。此方佐渡コントロール。新た目標を確認した。北東の方角、五〇キロの地点だ。直ちに急行し撃墜せよ』


「天風一番了解。直ちに目標へ向かう。しかし、切りが無い」


 無線を切ってから松本はぼやいた。

 V1も梅花も量産コストが安い。

 そのため大量生産できる。

 その後継者である<復仇>も簡単に生産できるため、大量に打ち出すことが出来る。

 次から次に飛来してくる。

 撃墜するのも大変だ。

 九九パーセント撃墜されても、残り一パーセントがあたれば良い、一万発撃てば百発が命中する、一発、二五〇キロの炸薬として二五トンの爆弾を降らせたのと同じだ。

 一発のコストが当時の値段で一〇〇ポンドほどという、英国の研究結果もあり、ランカスター爆撃機の四万ポンド近くと比べれば遙かに格安で、効果的と言えた。

 そして撃墜率が九九パーセントになるのは防空兵器が配備されるまで掛かり、当初はレーダー網と指揮系統の不備もあり、四割程度であった。

 だからこそ、北朝鮮は盛んに<復仇>を撃ち込んでいた。

 簡単に打てるからこそ飛んでくる上、数が多くすり抜ける機体が出てきて被害が出る。

 だが、この状況は日本国民に変化をもたらすことになる。

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