震電改と<復仇>

『此方、佐渡コントロール。天風へ伝える。北西の方角に反応。南東へ向かっている。本土に侵入する前に撃墜せよ』


「此方天風一番。了解した」


 松本は了解すると、震電改を指示のあった方向へ向けた。

 大戦中、開発された新型機で、B29の撃墜に使われた良い戦闘機だ。

 だが終戦となり、軍の解体と共に戦後再建の資材として解体された。

 しかし、工場の工具は残った。

 いつか再び生産するため、機体の準備だけはしていた。

 その成果は実った。

 警察予備隊航空集団の航空戦力を作り上げるために、日本の航空産業軍用機生産の復活のためのテストケースとして生産が再開された。

 震電が選ばれたのは、機体の後部にエンジンが載っている為、世界の潮流であるジェット化に対応しやすいという点があった。

 エンジンこそ信頼性と整備の関係からアリソンエンジンに交換されていたが、その他は日本の設計だ。

 元の震電より大型となり、機体設計にも余裕がある。

 しかも、ジェット機の試作型も出来つつある。

 いずれも戦争によって早まっている。

 細々と生産と開発が進んでいたが、戦争が始まったことにより何もかもが足りなかった。

 米軍の損害も大きい上に、機体の供給が少ない状況、本土に潤沢な予備機があるが太平洋から運ぶのに時間が掛かっているのが現状だ。

 しかも補充は米軍が優先されていた。

 日本独自の機体を、航空集団へ供給可能な機体が必要だった。

 そのため震電の増産が決定した。

 ジェット化をしてもすぐに切り替える事が出来ると考えての処置だった。

 だが、残念ながら、まだジェット機は試作機が出来たばかりで、松本達にやってくるのは先の事だ。

 その事を楽しみにしている松本だが、今はやるべき仕事がある。


「見つけた」


 機体の後方上部に付けたパルスジェットエンジンを時折点火させながら飛ぶ機体。


「梅花、いや<復仇>を見つけた。もうすぐ海岸だ。撃墜するぞ」


 旧日本軍が作り出した巡航ミサイル梅花を元に作られた北朝鮮軍の巡航ミサイル<復仇>だ。

 マリアナのB29基地を攻撃するためにV1巡航ミサイルを大幅に射程を延長し硫黄島から攻撃出来るようにした無人飛行爆弾梅花。

 命中率はイマイチだったが、損害なく米軍に打撃を与えられる上に、量産が容易で大量生産し易く、多く作られた。

 その工場の一つが北山重工が建設した満州工場で、終戦後は満州国に属した。

 戦後も生産が続けられ、東側の軍隊に大量に配備。

 米ソ冷戦が始まると沿海州から、米軍の根拠地となっている日本へ撃ち込もうと備蓄されていた。

 発射基地には北日本は勿論、日本に近い北朝鮮も選ばれ北朝鮮に基地が建設された。

 極東戦争では当初、陸上戦のみで片付くとされ、使用されなかった。

 実際、開戦後、北朝鮮軍は奇襲に成功し快進撃を続け、釜山まで追い詰めた。

 だが、そこで北朝鮮軍は限界だった。

 軽装備とはいえ韓国軍主力の捕捉、包囲殲滅に失敗し、釜山まで逃げられた。

 アメリカの援助により韓国軍は態勢を立て直し、防衛線の構築に成功した。

 一方、快進撃を続けた北朝鮮軍だったが、韓国軍の反撃により徐々に損害が増えた。

 特にスーパーバズーカの配備によりT34が撃破出来るようになって韓国軍の士気が回復したことが大きかった。

 また、長距離を移動させたため、北朝鮮軍の戦車の足回りに疲労が溜まっていた。

 通常なら整備をするべきだが、編成されたばかりの北朝鮮軍は後方支援態勢が未熟で、整備できず故障する戦車が続出し、戦力が低下していた。

 また兵員の死傷も多く、前線の兵士は開戦当初の三分の一に減っていた。

 補ったのは、韓国国内で強制徴兵した兵員であり士気は低く、脱走即時射殺の督戦隊によってどうにか維持している状況だった。

 後方からの補給も輸送力が無く貧弱だった。

 日本から飛来する国連軍航空隊により河川に架かる橋などを破壊されたこともあり補給物資が届かない状況となった。

 北朝鮮軍は徴発した人夫に天候にかかわらず一晩で二〇キロの荷物を背負い二〇~二四キロの道を行くよう厳命し一日四〇〇トンの物資を前線に運び込んでいた。

 しかし、必要最小限しか届かず、食料は現地調達。

 それも釜山橋頭堡を巡る攻防戦、攻城戦の様相を呈してくる現地調達の食料がなくなり――北朝鮮からの補給は本国から離れているため殆どなく、北朝鮮軍の攻撃力は日々低下していった。

 この状況を打破するため北朝鮮軍首脳部は国連軍の根拠地となっている日本への巡航ミサイル攻撃を決定した。




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