地下陣地攻防戦

『第四小隊第二班。北に向かって100m前進せよ。東側を移動する第二小隊に注意』


「第四小隊第二班了解。直ちに前進する。いくぞ左の第一中隊に注意」


 加賀谷巡査部長は部下を纏め、方向を確認しながら前進する。

 こういうときは味方の同士討ちが怖い。

 だが彼等は地下共同溝での制圧を幾度も経てきた歴戦の隊員、いや兵士であり、抜かりはなかった。

 指揮の指示に従い、100m先の統制線まで移動する。

 右手に握るMG34による圧倒的な火力を誇るが、過信することはない。

 他の部下三人と共に警戒しつつ前進する。

 だが、数メートルも前進したところで、トラップにはまった。

 突如、後ろの天井が爆破され、退路を塞がれた。


「警戒!」


「前方に人影!」


 注意を促すと共に、部下の一人が前方に敵影を見つけ前に出る。

 後ろに下がったり壁に張り付いて避けるようなことはしない。

 避けたら仲間に銃弾が降り注ぐ。

 自分が盾になるために、そのための防弾装備を身につけている。自分の防弾装備を信じて、前に出る。

 銃撃戦となるが小銃の音を機銃の銃声がかき消した。


「ぎゃあっ」


 発砲速度の違いから制圧したが相手はこの一週間で戦場慣れした北日本の兵士だ。

 一発の銃弾が身体を捕らえた。


「ぐはっ」


 拳銃やサブマシンガンとは威力が違った。

 弾は防いだが、エネルギーが圧倒的で強い衝撃を与え、身体にダメージを加えた。


「負傷者!」


「引っ張ります!」


「後方確保!」


 加賀谷の号令で直ぐに部下達が行動する。

 一人が前に出て敵を牽制すると共に、一人が曲がり角の死角に入り安全地帯を確保、残り一人が負傷者の肩章を掴み、安全地帯へ引き込む。

 その間、加賀谷は敵を警戒しつつ全体を指揮する。

 幾度もの実戦と、その十倍の訓練が作り出した見事な練度だった。


「弾は貫通していません。しかし、ダメージが大きく行動不能」


「班長了解」


 一安心だが、状況は悪い。

 分断してからの襲撃。

 向こうもプロであり連携は得意だ。


「弾薬を節約しろ!」


 敵を近づけさせないように銃撃を加える。

 敵が出てくるまで打ちたくないが、撃たないと拙い。

 弾幕の合間を縫って、手榴弾を投げてくる。


「手榴弾! 防御!」


 加賀谷の指示で部下達が背を向け爆風に備える。

 爆風が襲うが、防弾装備のお陰で助かった。

 だが、すぐさま突入してきた北日本軍兵士に対して掃射を浴びせて撃退する。


「畜生! このままだとやられる!」


「班長突入しましょう!」


「落ち着け! 状況が分からないもちまま突入するな! 弾薬を再分配して耐えろ!」


 危機に陥ってパニックになっているのは分かる。

 自分も自棄で突入して終わりにしたい。

 だが、それはダメだ。

 無謀な攻撃などしてはならない。

 無理に突入して、弾薬を消耗して、結果抵抗できなくなっては味方の救援が間に合わない。


「耐え続けろ!」


 加賀谷達、特機隊の多くは沖縄戦の生き残りだ。

 特機隊隊長からして、前線で小隊を率いて戦った元指揮官だ。

 彼等の戦いは米軍だけでなく、軍内部もあった。

 軍事作戦中、絶望的な戦況の中で、戦意が折れ犯罪に向かう兵士が後を絶たない。

 島民との軋轢も生まれ、治安維持のために活動した事もある。

 長い包囲と損害、いつ死ぬか分からない状況から自棄になり、反乱を起こした部隊を制圧した事さえある。

 無敵皇軍と言っても末期になればなるほど、兵士の犯罪、軍法会議の数は増えていった。

 その経験と経緯から関東警が生まれた時、警察関係者隊長と幹部その部下達が引き抜かれ、特機隊は生まれた。

 激戦の中、治安が、風紀が乱れた時の地獄を知るだけに治安への思いは関東警の中では強い。

 そして、戦場での雪辱を果たすために、自分たちの強さを証明するためにも、最後まで抵抗するつもりだった。

 だが、それもあと僅かだ。


「弾切れです!」


「こっちもです!」


 二人の部下の弾薬が切れた。

 加賀谷が前に出て点射を行い、牽制するが何時まで保つか。


「弾薬を再分配しろ! 移動準備! 俺が運ぶ!」


 このままではラチがあかないと包囲網を突破する決断を加賀谷は下した。

 負傷者の弾薬を残り二人が分け、準備する。


「いくぞ!」


 加賀谷が号令をかけたが、実行される事はなかった。

 目の前で、北日本軍の兵士が銃撃を受け倒れた。


「味方だ!」


 聞き慣れたMG34の機銃音だ。


「撃つな! 第四小隊第二班だ!」


 加賀谷は精一杯の大声で叫んだ。


「此方は第二小隊第三班だ! 四小隊二班の班長は?」


「俺だ! 加賀谷巡査部長だ!」


「良かった、生きていたか」


 味方である事を確認して合流すると互いに生存を喜びあう。


「よく来てくれた」


「救援を命じられた。運良く近かったし、連中も途中から引き上げた」


「引き上げた?」


「ああ……」


 そこまで言って三班の班長も違和感に気がついた。


「直ぐに地上へ」


「ああ、拙いな」


 加賀谷達は直ぐに動こうとした。だが手遅れだった。

 直後、地下から激しい衝撃が起きたかと思うと上に向かって床が盛り上がる。

 そして大量の土砂が彼等を埋め、意識を消し去った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る