地下陣地の戦い

「どうにかアメ公共の攻撃は防いだな」


 監視所から国連軍の様子を見ていた稚内守備隊、その一部隊の隊長は、国連軍の将兵が下がっていくのを見て安堵して言った。

 かつて硫黄島で戦い勝利した経験を買われ、得心の上、教導隊として樺太へ陣地構築の指導を行いに来た。

 だが、ソ連の侵攻により、数百人の部下の死傷と数倍の損害をソ連軍に与えたのち、降伏して現地で捕虜となった。

 その後は、シベリア送りを回避するために北日本軍へ志願し、部隊創設に関わった。

 だが、創設期の混乱が終わり、マニュアルで運用が可能になると思想的に信頼できる若い党員と交代させられ、彼は稚内守備隊に配属された。

 そこでくすぶっていたが本郷司令官に見いだされて指導する立場となり自信を取り戻した。

 苦戦を続けて厳しい状況が続くが、撃滅された主力に比べればまだ天国だ。


「アメ公が引き上げた。ひとまず戦闘は終わりのようだ」


 アメ公と言っているが実際は南日本の部隊で、警察予備隊と言う名称だ。

 だが、意味不明な言葉であり、南はアメリカの傀儡と信じている隊長にとって彼等はアメリカの手先、アメ公と同様だった。

 ただ、手管は旧陸軍並み、物資はアメリカ軍並みだ。

 潜水艦が弾薬輸送船を撃沈してくれたが、代替物資が届いて、砲撃が再開され不利になっている。

 この時も、国連軍の背後から砲撃が始まった。


「退避!」


 直ぐに部下を地下の陣地に下がらせる。

 防御戦では損害をいかに低くするかが重要だ。

 部下や仲間が減る度に出来る事が少なくなり苦しくなっていく。

 その地獄を硫黄島で経験しただけに損害の増える事、敵の砲撃に対して敏感だった。

 砲撃があったら、命令無しに地下陣地に下がって構わないと徹底させていた。

 政治将校は敗北主義的だと言って止めさせようとしたが本郷司令官によって撤回された。

 愚直に陣地に籠もった政治将校の部隊が砲撃で消滅した後は、他の政治将校は黙り、部下達は徹底的に退避することを選んだ。

 お陰で、敵の浸透を受けるが、他の陣地や地下陣地が反撃し、連絡路を断って孤立させ殲滅する事で、損害を与え、被害を最小限に抑えていた。


「砲撃が止んだら反撃だ」


 だからこの時も指揮官は砲撃が止んだ後に出て行くことを考えていた。

 しかし、指揮所に飛び込んで来たガス弾に目を見開く。


「退避!」


 急いでガス弾を排除しようとしたが、既にガスがまき散らされていた。

 それでも水瓶に入れてガスの拡散を抑える。


「状況ガス! 状況ガス!」


 目の痛みを堪えながら叫び、ガスマスクを付ける。


「何が起こった!」


 部下に尋ねたが、答えようとした部下は蜂の巣にされて倒れた。


「敵兵だ! 反撃しろ!」


 本部詰めの兵士が小銃で反撃するが、相手を機関銃を持っている。

 拳銃や小銃では相手にならない。


「電気を消せ!」


 直ぐに暗闇となる。

 これで地理に不案内な敵兵は大人しくなると思った。

 だが、違った。

 赤い目を輝かせ迫ってきた。


「暗視装置か!」


 教導隊にいた時、兵器開発で助言を求められた事があり個人携帯用の赤外線暗視装置を見せて貰った事がある。

 当時は個人用でも重量が十数キロと重く実用的ではないため不採用になったが、赤い光りを放ったことを覚えている。

 それが、両目と同じ間隔で並んでいるのを見て直感的に理解した。


「畜生!」


 指揮官は拳銃だけを通路へ伸ばして放った。

 だが、拳銃弾だけでは防弾装備を着込んだ彼等、国家公安員会直轄、関東治安警察、特別機動隊。

 通称、関東警、特機隊を貫くことは出来なかった。

 彼等はフリッツヘルメットの下に装着した暗視装置から周囲を冷酷に、そして冷静に、把握。

 敵がいると思われる場所にMG34の銃口を向け引き金を引き、立ちはだかる者に向かって銃撃を加えていく。


「ぐはっ」


 数百発の機銃弾の内の一発が指揮官の手を貫いた。

 痛みで手を引っ込める、その一瞬を特機は見逃さなかった。

 すぐさま射撃したまま突入する。


「指揮官殿!」


 兵卒が指揮官を庇おうと彼等の前に小銃を構える。


「ぐああっっっ」


 が、特機は容赦なく銃撃を浴びせる。

 コンマ一秒の遅延のあと特機は指揮所の内部に突入すると入り口から掃射を浴びせる。


「此方、第四小隊、第二班班長、加賀谷巡査部長。指揮所らしき区画へ突入。制圧完了」


『了解。区画の確保を優先。尋問できる者か証拠となる書類は可能であれば回収せよ』


「第四小隊第二班了解。区画を確保する」




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