稚内挟撃戦 勃発

 戦史において稚内挟撃戦と呼ばれる戦いは非常に特異な戦いだ。

 国連軍が稚内に上陸したため北日本と国連軍、敵味方が相互にサンドイッチのように配置され、両者が前後に敵味方を抱えている状況で戦う事になった。

 いかに前後の戦線を突破されないようにするかが焦点となっている。

 北日本の最初の反撃は、上陸して五日目の早朝に始まった。

 戦場では彼等が一番の兵力を持っているが、後方へ上陸した国連軍により補給線を切断され、日々戦力を失っており、迅速に攻撃する必要があったからだ。

 彼等は到着した部隊を複数に分け、各所から浸透攻撃を行い、防衛線を突破しようとした。

 だが、国連軍、いや、太平洋戦争で浸透戦術に悩まされていた米軍は徹底的な対抗策、対処を行い、各種機材を使った実証済みの警戒線を作り上げていた。


「センサーに反応!」


 聴音装置を使っていた兵士が、異音、進撃する敵の音を察知する。


「照明弾! 周囲を照らせ!」


 すぐに迫撃砲から照明弾が放たれる。

 そして、光りの下に蠢く北の部隊見えた。


「敵を視認! 敵襲だ! 砲火開け!」


 予め配置していた機関銃から弾幕が張られる。

 機銃に関しては二四時間での交代配置が行われており、すぐに撃てるようにしていた。

 発砲と同時に警報が鳴り、掩蔽壕で仮眠していた兵士が配置に就き、発砲を始める。

 北日本の部隊は反撃するが、見つかってしまっては火力を浴び、防御に優れる国連軍相手には隠れるしかない。

 一部が、擲弾筒を応用した迫撃砲で反撃するが、焼け石に水だ。

 潰しても他の陣地の架線が重なっており相互援護ですぐにカバーされてしまう。


「後方に浸透されているかもしれないな。捜索隊を」


 予想は当たっていた。

 既に浸透していた部隊もあり、全軍に非常警報が鳴らされ、捜索隊が派遣された。

 そして、砲兵陣地や物資集積所、司令部を襲おうとした北の歩兵部隊を発見し攻撃する。

 北の兵士達は優秀だったが戦車も使った捜索隊の掃討作戦では火力が低すぎて話にならず、あっという間に駆逐された。

 浸透作戦の失敗を理解した北日本軍だったが、予定通り攻撃は開始された。

 硬直性ではなく、必要性からだ。

 補給路が断たれた今、稚内を、補給物資を受け取れる港湾との連絡を回復しなければ全滅する。

 補給が断たれ、空爆を受けては、一日ごとに戦力が減っている。

 時間が経てば経つほど、勝機は失われる。

 立て直すための方法などなく、今攻撃しなければ軍隊としての組織も失われる。

 そのため、彼等は攻撃を強行した。


「凄い数だ!」

「援護を求める!」


 北日本の主力とぶつかった前線からは悲鳴のような声が通信を通じて届いた。

 直ちに、沖合で待機していた水上艦艇が砲撃を開始し、援護を行う。

 陸上の砲兵は温存された。

 物資の揚陸に時間が掛かるため、弾薬補給の輸送船が失われたため出来るだけ、弾薬を節約させるためだ。

 だが、砲兵以上の猛烈な砲撃が行われて北日本の攻勢は頓挫した。


「敵の後方を航空部隊を使って攻撃せよ」


 前線が一時安定すると、後方へ空爆を行わせた。

 攻撃発起地点へ向かう歩兵あるいは車両を破壊すれば、突撃前に撃砕できる。

 待機中の第一波は破壊できなくても、後続の第二波が突撃できないように痛めつける事が出来る。

 佐久田はそう信じていた。

 連日の出動で疲労が溜まっているだろうが、出撃させたのはそういう理由だ。

 大和にも砲撃を命じたのも同じ理由だ。

 海戦で損傷しているが、横須賀へ帰還しなかったのは、反転北上してくる北日本軍の主力を撃退するための火力を、四六サンチ砲の威力に期待していたからだ。

 内陸へ向かう航空隊が上空を通過した後、陸上部隊援護の為、砲撃を行う。

 敵機の数は少ない。流石に連日の消耗戦で疲弊している。

 性能は米軍機の方が低いが、潤沢な補給で連日出撃できるの。

 対して、北は配備されたばかりで慣れていない新型のジェット機。

 どうしても整備不良や生産されたばかりで交換用の部品が少ない。

 そのため国連軍は稚内上空で航空優勢を確保出来た。


「陸上部隊はどうなっている?」


「前線で一部が突破されましたが、大多数は健在です」


「奪われた陣地へは、増援の阻止を中心に攻撃、隙があるなら砲撃。弱っているのを確認した奪回せよ。だが無理はするな。稚内包囲を崩したくない」


 縦深はある程度確保しているし、艦砲射撃と航空部隊の支援もある。

 上陸した兵員は貴重であり、失うわけにはいかない。空間を引き換えに損害を可能な限り、減らしたかった。


「南からは四個師団が北上中だ。こいつらを迎撃するためにも現状を維持しなければ」


 佐久田の目指しているのは典型的なスレッジハンマー作戦、金床へ撃ち込む金槌だ

 稚内上陸部隊をスレッジ、金床にして、旭川から反転攻勢に出る四個師団がハンマーとなり敵軍主力を叩き潰すのだ。

 本当は稚内を完全制圧して占領して後顧の憂いをなくし、天塩に上陸させた全ての師団で迎え撃ちたかった。

 だが稚内が陥落しない今、背後に敵の拠点、稚内を抱えたまま、南の北日本軍主力を迎え撃つしかない。

 手持ちの手段で対応するしかないのだ。

 そのためにも、稚内の包囲は維持した状態で、南から襲撃してくる北日本軍を迎撃する。

 しかし、敵もやられてばかりではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る