阻止攻撃

「攻撃開始だ!」


 松本強少佐率いる天風飛行中隊は旭川の北方で攻撃を行っていた。

 退却する北日本軍の殿を勤める部隊、半ば捨て駒となった部隊への攻撃だ。

 稚内に上陸されて驚き撤退しているようだが、一応、軍隊らしく、背後を攻撃されないように遅滞戦闘の部隊を置いている。

 ただ、この部隊は厄介だった。

 重武装の八個師団が持って行けない重装備を置いていっただけに、装備が豊富だった。

 追撃する第二管区隊と第一管区隊――米軍は細い道のため、一部を左右の沿岸に派遣し残りは予備隊にしていた――は、追撃戦の事例通り、軽装備の部隊が先行してしまい、迎撃を受けてしまった。

 そのため、松本達航空隊が航空支援で砲兵の代わりをしていた。

 発見した防御拠点、特に支援を行う重砲陣地と戦車を破壊するのが任務だ。

 F51の余裕のある爆弾搭載量なら簡単だが、地上攻撃に優れたF47サンダーボルト、日本側名称新雷電の方がよい。

 去年米空軍から退役した機体が大量にあるハズだ。

 だが、パイロット不足で、使う事が出来ない。

 そのためF51部隊の松本もこき使われている。

 松本は撃墜されて救助された直後だったがパイロットが足りず、かり出されていたのが大きな証拠だ。

 北日本が拠点であった稚内を攻撃されているため航空機の発進が出来なくなり、戦闘機が飛来しなくなったのも大きな原因だ。

 五式戦は飛んでこられるが、稚内の機動部隊が作り出す防御スクリーンを突破するのは困難だ。

 ジェットも航続距離が短くてここまで来れない。

 そのため松本達が攻撃にかり出された。


「おりゃっ」


 怒りとともに松本はロケット弾を放った。

 T34の車体上部に命中し派手に炎上する。

 念の為にナパームも投下して使用できないようにする。


「戦車撃破一か」


 既にエースの称号を持っているが、ここに戦車も書き加えるのは不思議な感覚だ。


「他も上手くやったな」


 部下の正体も攻撃に成功し、他の戦車や重砲を破壊している。


『敵防衛線に着弾を確認、感謝する』


「了解、上手く行って良かった。指示が良かったんだ」


 地上の航空統制官から感謝を受ける。

 感謝されて悪い気分はしない。


「天風全機、これより帰還する」


 松本は機体を翻した。

 千歳基地に戻って弾薬を補充して再出撃だ。

 今度は、前線ではなく更に奥の、撤退する北日本軍主力縦列への攻撃だ。

 少しでも敵を削ぎ退却を遅らせるための攻撃だ。

 奥地に行く分、飛行時間も長くなるが敵の退却を抑えるのに必要だ。


「他も大変なのだろうしな」




「ああ、疲れたぜ」


 南山は舷側に、突っ伏して呟く。

 疲れすぎて、眠れず少し身体を動かそうとしたが、けだるさが勝り、舷側に出たところで力尽きた。

 屈強なパイロットである南山だが、仕方のないことだった。

 なにしろ、このところずっと出撃しっぱなしだった。

 稚内沖では一日三回、南山の場合夜間着艦も可能なベテランだからといって、一日四回出撃する羽目になった。

 それも天塩山脈沿いに北上する北日本軍主力、天塩川と山に挟まれた狭い峡谷を通る連中に対して、航空機で峡谷へ突入するのだ。

 連中が稚内に行く前に出来るだけ数を減らす必要があり、南山達は連日出撃していた。

 南山の疲労は限界に達していたが、出撃しなければ味方が危うく、皆出撃する。

 一人残るわけにはいかない。

 だが、幸か不幸か、燃料弾薬は有限であり、補給が必要だ。

 南山達は、オホーツク海を出て千島沖の太平洋へ離脱し、補給を受けていた。

 現在、信濃は補給部隊の第二図南丸から補給を受けている。

 艦船燃料、航空燃料のほか、弾薬、そして食糧に、嗜好品。

 これら補給品が、ホースやケーブルを使ってで信濃に運び込まれている。


「再び補給艦とは、第二図南丸もついてないな」


 第二図南丸は戦前から活躍していた捕鯨母船だ。

 捕鯨母船は捕鯨船が捕らえた鯨を回収し、船上で解体し、鯨肉や鯨油を保管するための船だ。

 だが、その性能と構造。

 鯨油用の保管タンク、鯨肉用の冷蔵庫、解体用の甲板をそれぞれ、燃料タンク、食糧冷蔵庫、整備資材の保管庫として活用することが出来ると海軍に判断され、太平洋戦争中、機動部隊への補給艦として徴用された。

 性能は海軍の目論見通りに発揮され南山達が活躍する縁の下の力持ちとなった。

 そのため米軍の最重要目標となり執拗に狙われ、泊地停泊中に撃沈された。

 しかし、浅い海面だったことと、戦後の食糧難により、捕鯨のために浮揚され修理の上で再び捕鯨母船として、活動していた。

 だが、南氷洋での捕鯨を終えて日本に帰って来ていた時、極東戦争が勃発。

 政府の要請により再び機動部隊の補給艦として従軍することになった。

せっかく捕鯨に戻れたのに再度の従軍は不本意だろうが、南山達には有り難い存在だった。

 お陰で再び飛べるし、タバコも吸えた。


「しかし、守り切れるのか」


 先の海戦は勝利したが武蔵を取り逃がした。

 再び船団へ突入してきたら負けるのではないか。

 しかも南から来た日本軍の主力八個師団が反転してきている。

 これを迎撃する稚内の上陸部隊は、五個師団と劣勢。

 直接対決する前に航空攻撃で数を減らしておく必要がある。

 そのため、南山達、艦載機部隊は毎日数回の飛行を行っている。

 疲れているが、稚内の味方を助ける為には仕方ない。

 補給が終われば、再びオホーツク海へ入り、攻撃を再開する。

 しかし、止めきれるのだろうか。


「まあ、そこは佐久田参謀に、いや今は長官か、いや船隊司令か、どうでもいいや、兎に角、佐久田さんに頑張って貰いましょう」


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