連合軍のアキレス腱

「潜水艦は意識していなかったな」


 被害状況の報告を受けた佐久田は、溜息を吐いた。

 ストラブル中将が行方不明――後日戦死と確定された――のため、佐久田が代理司令官として国連軍を統括する事になった。

 状況は悪い。

 海戦には勝ったが北日本の潜水艦によって船団に大きな被害が出ていた。


「北日本の潜水艦もなかなかやる」


 海戦と、司令長官戦死による指揮系統の乱れ、その後の救難作業で国連軍は混乱していた。

 とはいえ、潜水艦に対する警戒を怠ったのは痛恨だった。

 北日本の潜水艦部隊は他と同じように旧帝国海軍の潜水艦と乗員により編成が始まった。

 ロシアが捕獲したドイツのXXI型潜水艦と満州国で生産されていた潜高型潜水艦を元に独自の潜水艦を満州国が建造し、北日本が輸入。

 北日本人民講和国海軍潜水艦隊を編成し、極東戦争開戦時において、数は少ないが練度、実力的には、大戦末期の日本海軍並みの戦力を持つに至った。

 誕生して五年に満たない海軍としては大金星と言えた。

 この戦争を始めた当初、彼らは北海道への大動脈、津軽海峡の封鎖任務が最重要作戦として与えられていた。

 北海道への部隊および物資輸送を妨害できれば、簡単に勝てると考えていたからだ。

 だが、大戦で米海軍の潜水艦に痛い目を見た海上警備隊の準備は万端だった。

 大湊を根拠地にした哨戒活動、陸上レーダーと哨戒艇、哨戒機の連携により、潜水艦の行動を監視。

 発見次第、撃沈する態勢を作り上げていた。

 いくら酸素魚雷の改良型、四〇キロ近い射程を持つ音響誘導魚雷を装備していても、半径一〇〇キロ以内に接近すら出来ないほど警戒厳重な津軽海峡への攻撃は不可能だった。

 無理に突入た潜水艦もあったが、すぐに海上警備隊に発見され、撃沈されてるしまつだった。

 仕方なく、沿岸航路の貨物船に向かって雷撃を行い多数の船舶を撃沈し、成果を上げた。

 流石に軍備を制限された海上警備隊の警備は他では薄く、第二次大戦初期のUボート並みの成果を上げられた。

 これはこれで海軍の歴史に誇らしく記載するべき事だ。

だが、戦局をひっくり返す、北海道への物資輸送を寸断するまでに力が及ばなかった。

 さらなる戦果を挙げようとした時、国連軍の上陸船団がやってくるという情報が入る。

 樺太上陸を恐れた北日本上層部の命令で北日本潜水艦隊は北日本沿岸への移動を命じられた。

 防備的な任務が潜水艦に意味がないことを知っている艦長達は、千島列島の沖合への展開を要望した。

 米本土から来るであろう米軍船団の攻撃に回して欲しい。

 潜水艦が最大限に活躍できる通商破壊に当たらせて欲しい、と懇願した。

 だが、拡大した領土を奪回されることを恐れる共産主義者達は、潜水艦の使い方を理解出来ず、防御を固める、自分たちを守らせるために艦長達の意見を却下。

 潜水艦を北日本周辺に再配置させた。

 結果的にこの作戦は成功してしまった。

 天塩海岸周辺の船団に向かって彼等は出撃。

 海戦のドサクサに紛れて侵入し魚雷を発射。

 船団の輸送船五隻に命中させ、内二隻は弾薬輸送船であり積載した弾薬に誘爆して撃沈。

 上陸部隊、いや佐久田に弾薬不足を懸念させる程の損害を与えた。


「で、弾薬は足りるか?」


 だからこそ佐久田は調査させ、その結果を尋ねた。


「全く足りません。三日間の全力射撃分しかありません」


「話しにならないな」


 攻城戦、防御を破壊するために大量の弾薬を使う状況となった稚内攻略で、弾薬の喪失は頭の痛い問題だった。


 しかもこの状況で北上してくる北日本を迎え撃たなければならない。


「南から引き返してくる敵部隊、北日本軍主力の位置は?」


「あと一日で稚内へ到達できる位置です。既に上陸部隊の偵察部隊が接触。なお、接近中とのことです。航空部隊からの偵察報告もあります」


「陸上部隊迎撃の準備は?」


「可能な限り、稚内と沿岸部に近い地点を設定して陣地を構築しています」


 佐久田は、艦砲射撃が可能な位置で、橋頭堡の安全が確保出来る線、稚内と南の北日本軍主力軍の砲兵の射程外となる場所に、迎撃ラインを設定していた。

 実行されているか確認のために尋ねた。

 部下達は佐久田の計画通り実行していた。

 その上で、佐久田は現場の最高指揮官として命令を下さなければならなかった。


「さて、どのような手を打とうか」




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