野中組再び

「野郎共! 突入だ!」


 松本と別れた野中は目標に向かって部下を率いて武蔵に向かって突進する。


「全く、綺麗な艦だったのに色々ゴテゴテと付けやがって」


 接近すると武蔵の艦容が見えてきた。

 武蔵は東側に所属している事もあり、東側の装備を取り付けられており姿が変わっている。


「あんなのに対空砲を当てられたくないな」


「全くで」


 武蔵からは換装されたソ連製一〇〇ミリ連装両用砲がしきりに放ってくる。

 だが、アメリカと比べ射撃指揮装置の性能が悪く、外れたところへ着弾する。

 お陰で、接近するのは簡単だ。

 だが、接近すると14,5ミリ機関砲ZPU-4が対空射撃を加えてくる。

 その弾幕の中でも、野中達は進んだ。

 しかし野中は、異変に気がついた。


「! 回避しようとしている」


 武蔵が舳先が少しずつズレている。針路を変えて回避ようとしている。

 このままでは、魚雷が当たらない。


「第一小隊! 俺に続け! 残りはこのまま攻撃!」


 野中は機体を横滑りさせ、雷撃位置を変える。

 残りは牽制として残し、雷撃させる。

 勿論外れるだろう。

 だが、彼等も分かっていて雷撃を敢行した。

 武蔵は、インベーダーから投下された魚雷を全て回避出来た。

 しかし、寸前で針路を変えた野中が、武蔵の横腹に回り込んだ。


「ドンピシャ!」


 巨大な船体が横を見せている。

 絶好の雷撃位置。

 しかも至近距離、外しようのない位置だ。

 優れた雷撃指揮官である野中が見逃すはずがなかった。


「撃っっっっ!」


 野中のインベーダーから、魚雷が投下され、武蔵に進む。

 数百メートルの至近距離から放たれては、武蔵も避ける事は出来ない。

 野中は、浮き上がる機体を制御し、煙突の真上を飛び越え、通信アンテナと北日本海軍旗を翼端で切断して飛び去った。


「尾部機銃手! 戦果確認!」


 飛び越えた後、野中は叫んだ。

 尾部機銃手は二本の水柱が上がったことを報告した。


「やったぞ!」


 野中たちは見事に魚雷を命中させて武蔵に巨大な水柱を立ち上げさせた。


「美事……」


 野中の雷撃を見た者達は、一様に感嘆の声を上げた。

 佐久田も猪口も例外ではなく、野中の攻撃に魅入った。

 対空砲火をモノともしない突入。

 回避を察知して、機転を利かせた雷撃位置変換。

 至近距離での雷撃。

 武蔵ギリギリをかすめ飛んで飛び去る技量。

 北日本の雷撃がお粗末だっただけに、野中達の雷撃はより鮮やかに見えた。

 だが、野中の試練はまだ続いていた。

 援護に失敗したミグが懲罰を恐れて野中たちを逃がすまいと攻撃を加えてきた。


「させるか!」


 だが、松本が間に入り、野中たちを庇う。

 思わず射線の中に飛び込んだため被弾してしまった。


「操縦不能だ」


 幸い松本に怪我は無かったがエンジンと操縦系統がやられて動かせない。


「脱出する! 指揮は任せた」


 松本は部下に命じてキャノピーを開けて脱出する。

 怒り狂ったミグに銃撃されるのを恐れて落下する間は、パラシュートは開かない。

 開いたパラシュートに銃弾を撃ち込まれて狼煙にされるのを防ぐ為だ。

 海面すれすれで松本はパラシュートを開き、周りを見る。


「畜生、攻撃されている」


 自分が守った、インベーダーがミグに攻撃されている。

 最後尾の一機が被弾する。

 防弾装備に優れる米軍機だが、何度も攻撃されては限界がある。

 遂に煙を吹き出し、海に向かって落ちてしまった。


「畜生」


 あれほど勇気があり、技量のあるパイロットを守れなかったことが悔しかった。


「俺はいつもこれだ」


 幾度も戦ってきたが負け戦が多く、味方を見捨てて逃げ帰ってきた。

 何度でも戦おうと決めたが、流石につらい。

 それでも松本は生き延びて戦う事を決めていた。

 着水寸前に、ロープが絡むのを恐れてパラシュートを切り離し、海面に松本は着水した。

 暫く海水に顔を付けたままだった。

 怒りと恥で頭が熱くなりすぎていた。

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