野中の戦後

 海戦において航空戦力は有用である。

 これは海軍関係者の共通認識だ

 当然、それは後継である海上警備隊航空集団でも例外ではなかった。

 海上警備隊が創設されると直ちに、航空隊を編制した。

 空母への搭載も勿論だが陸上からの哨戒活動と対艦攻撃も視野に入れていた。

 そのために、米空軍から航空機を貸与して貰った。

 選ばれたのはA26インベーダー。

 ソロモン海域で魚雷を積み込み、日本の艦船を攻撃した実績があり、採用されていた。

 B25は最高速度が四五〇キロ以下と遅く、最新型のネプチューンも機数が少ないし対潜攻撃に使いたい。

 かくして、最高速度六〇〇キロ近い、インベーダーで雷撃隊が編成され戦いに参加した。

 勿論機雷敷設も任務で訓練も実戦もあったが、彼等の任務は雷撃による艦船攻撃が主だった。


「行くぞ野郎共!」


 新たにやってきたのは三沢から発進した第一攻撃飛行隊。

 率いるのは野中五郎一等警備正だった。

 戦後は物資横領の責任を取り、自決した岡村大佐の意志を継いで岡村が本土決戦の為、隠匿した物資を使い、事業を立ち上げ、特攻で亡くなった隊員たちの遺族、遺児を引き取り、彼らは守っていた。

 本当なら終戦とともに自決したかった。

 だが 岡村の頼みもあって、また託された命令を、残された隊員達や遺族を守る責務は果たすべく事業に専念していた・

 兄貴肌で面倒見のいい性格もあって部下たちを放っておくことができず海軍の負担にもならないよう野中は戦後しばらくは事業を進めていた。

 だが事業に乗り日本が再軍備を宣言すると野中は喜々として海上警備隊航空集団への道を進んだ。

 部下たちも、兄貴が行くなら、と野中とともに行き野中組が再結成された。

 そして彼らはインベーダーを率いて極東戦争に加わる。

 当初こそ、機雷敷設と宗谷海峡への対艦攻撃が主であった。

 稚内沖で海戦が行われていると聞くとすぐに魚雷を装備させて雷撃に向かう。

 インド洋で陸攻を率いてイギリス相手に魚雷を叩き込んだ経験が多いし、ソロモンでも戦った。

 背後にミグが迫って来ても野中達は編隊を崩さず突進する。

 それどころか防御機銃を放ち反撃する。


「命など前の大戦でとうに捨てている!」


 死に場所を失った。

 いや若者たちを先に行かせてしまった後悔の念が野中強く、死に場所を探していた。


「ここで魚雷を当てられるなら本望だ」


「合点だ兄貴!」


「何処までもついて行きますぜ!」


「ああ、ありがとよ野郎共! だが、その前に確実に戦艦に魚雷をぶち込む!」


 再びミグが銃撃を加えてくるが気にしない。


「連中の防御は熾烈だが、日本のためになるというのなら、ここで命を捨てても構わない! むしろ晴れ舞台! 男の花道だ!」


「おうよ!」


「野中組の槍先の味、露助に見せてやる!」


 野中達は意気軒昂だったが北側も必死だ。

 再びミグの銃撃を受け大爆発が起きる。

 だが爆発したのはミグの方だった。


「全く、とんでもない連中だ」


 松本達天風飛行隊が間に合い、野中達を援護した。


「有り難い、味方の援護か」


 友軍機が心強い。先の大戦で散々追いかけ回されたマスダンクなのが気に入らないが日の丸が付いているので良しとする。

 野中たちは松本の援護もあって無事に雷撃針路に乗る。

 今度は武蔵からの対空迎撃が行われる。


「これ以上は無理だ。離脱!」


 さすがに対空砲火に突っ込んでいくことは出来ず、松本は反転した。

 だが、野中達は、そのまま突っ込んでいく。


「援護に感謝する! 見事魚雷を命中させてやる」


 周囲で爆発が起こる中、離脱する松本達に野中が敬礼しているのが見えた。

 敵に向かって突っ込んでいるのに、対空砲を受けながらも、味方への気遣いと礼を忘れずに行う。

 松本は、それが男だ、と見た。

 付いていけない自分を恥ずかしく思う。

 だが致し方ない。

 自分たちが攻撃に加わっても、出来る事などない。

 ロケット弾があれば、先払いとして武蔵の対空機銃を黙らせることが出来るが、既に使い果たしている。


「武蔵の反対側に回れ! 彼等の帰投コースを確保する!」


 その代わり彼等が帰ってこれる空域を絶対に取ろう決心し松本はミグを追い回した。

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