北日本航空雷撃隊
かつて各個の保有艦艇を制限するワシントン、ロンドン両条約が締結された後、各国は代替手段として航空機の開発に手を尽くした。
日本は、英米との劣勢から陸上航空隊の発展に努め一大航空艦隊を編成。
開戦劈頭のマレー沖海戦をはじめ、多大な戦果を挙げた。
最終的に米軍の物量を前に壊滅したが、航空機の有用性を、海戦における実力を示し、各国の模範となる。
西側に比べ艦艇の保有数が少ないソ連も海戦における航空機の活用に活路を見いだすのは当然だった。
かくしてソ連海軍航空隊は増強が行われた。
陸上航空部隊の一部を、アメリカとの戦争に備えて大量生産されている攻撃機の中で魚雷を運べるだけのスペックを持つ機体を改造するだけで雷撃機が出来る。
もとより搭載量が大きい機体を選んだため改造は簡単なためすぐに大量に調達することが出来た。
この極東戦争でも、参加していた。
勿論、ソ連が直接参加することなど出来ないので、北日本海軍の航空部隊として、軍事顧問が指導名目で操縦している。
稚内沖の海戦が始まると同時に、北日本に分散避難していた航空隊が出撃し、海域に殺到していた。
その中にIl28双発ジェット攻撃機が含まれていた。
Il28はソ連が戦後開発した戦術攻撃機で、優れた性能を示しており、雷撃機としての性能もあるとされて採用された。
Tu14も候補だったが、Il28が大量に量産されていたため、部品が手に入りやすいとして、Il28の改造型が採用され、雷撃機を意味するTが付けられたIl28Tが採用された。
迅速に西側に対抗する為、生産が急ピッチで進められ、衛星国へも輸出された。
特に、戦力が劣勢な太平洋方面、北日本には最優先で配備された。
当初、ソ連の軍事顧問団が操縦する予定だったが、北日本海軍が独自に育てたパイロットから選抜したメンバーが優秀は成績を収め方針を転換。
ソ連ウラジオストックの西クネヴィチ基地で訓練を受け、機種転換を受けた。
その彼等が、武蔵の援護の為に到来したのだ。
当初は突入と共に行く予定だったが、通信の不備と空中集合に手間取り、今の時間になった。
「砲撃中止」
味方の航空機が接近しては砲撃できず猪口は射撃を中止させた。
彼等Il28は、大和に向けて突進したが、その動きは拙いものだった。
Il28Tは優秀な機体だが、彼等が配備されたのは機雷魚雷航空連隊。
機雷の名前が頭に付くように彼等の任務は機雷敷設が主だ。
戦力劣勢な海軍が、不足分を補うために安価で大量敷設が可能な機雷に、機雷敷設による航行制限に活路を見いだすのは当然だった。
ソビエツキー・ソユーズが続々と就役と共に、雷撃訓練の比重も増していったが、官僚主義により訓練項目の改訂に時間が掛かり、雷撃訓練に割かれたのは僅かな時間だった。
大戦からの実績がある満州国の航空魚雷を積んでいたが、その重さでフラフラと飛んでいた。
満州製、さかのぼれば旧日本海軍製魚雷を使っているのはソ連も航空機用の魚雷を進めていたが、開発した経験が無いのと、作ったのがロケット魚雷というゲテモノで碌に動かなかったためだ。
実戦経験済みで戦果を挙げている旧日本海軍製が実戦では使われた。
だが、幾ら実戦で性能を見せつけた魚雷でも運用する者の技量が低くては、活用出来ない。
この時も、彼等は大和から数千メートル離れた地点から魚雷を投下した。
日米海軍なら二〇〇〇メートル以内で魚雷を投下していただろう。
しかし、初めての実戦での緊張。
大和の対空砲火、特にアメリカのMk28五インチ連装両用砲の発砲速度と、GFCSMk37射撃指揮装置による正確な射撃、大和の巨大な船体による安定したプラットフォーム、VT信管の威力により、接近する前から正確な射撃と威力に打ちのめされ被害が出ていた。
さらに四〇ミリボフォース砲の射撃も加わり、彼等は三〇〇〇メートルより離れた場所から雷撃を行った、正確には魚雷を投棄して逃げ去った。
結果、大和は余裕を持って回避した。
「余計な事をしおって」
「邪魔しやがって」
珍しく猪口と佐久田が雷撃した東側雷撃機に向かって悪態を吐いた。
戦艦同士、大和型同士で戦っている中に割り込み、射撃を妨害。
あげく、未熟な腕で雷撃を敢行して、回避された。
お陰で大和の針路は変わり、これまで武蔵が積み上げてきた射撃データは無意味な物になった。
せっかくの真剣勝負に水を差された格好だ。
それは佐久田も同じであり、艦橋内で悪態を吐いたことが艦橋内にいた複数の隊員の話で確認されている。
気分を悪くしながらも大和と武蔵は仕切り直しをしようとした。
「新たに航空機の編隊を発見!」
「また、雷撃隊か?」
猪口は呆れるように言った。
「違います! プロペラです! 米軍のB26です! 我々に向かってきます」
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