プロペラ機とジェット機
「畜生!」
ヘリが撃墜される瞬間を、ミグを追いかけながら見ていた松本は再び悪態を吐く。
零観はヘリを撃墜すると他の目標がないか探しヘリを見つけると銃撃を浴びせた。
弾着観測機は逃げるように散って行き離れていった。
何とか、零観を追い払いたいが、後ろには回り込んだミグが迫ってきている。
逃げるだけで精一杯だった。
エンジンのスロットを動かしながら速度を調整する。
航空集団もジェット機の導入を検討しており、渋る米軍を説き伏せて少数の試験導入機がある。
松本は評価試験のために実際に飛んでみたことがあった。
その時、アメリカのテストパイロット注意されたのはスロットル操作を頻繁に行わないことだ。
回転数が安定しないと直ぐにストール、エンジンが停止してしまうからだ。
同じジェットなら同じ制限があると考え、狙われると、攻撃側がスロットル操作を強要する飛び方を松本はしていた。
実際効果があり、一機がエンジンを停止したのか動きが鈍ってくれた。
しかし、残りの機体は機動が慎重になり、松本達を囲む。
そして、手練れの一機が一機が松本に食らいついて離れない。
「やられる」
真後ろに付かれた松本は、撃墜される事を覚悟した。
だが、突如、後ろのミグが突如回転して離れていく。
「何が起きた」
松本は今の動きが理解出来ず、ミグを視線で追った。
ミグは機体を回転させたまま落下し、立て直すこともなく海に落ちていく。
「操縦不能になったのか」
教育隊や機体の試験にも加わったことのある松本は、その時の事、操縦不能になった機体の動きを思い出した。
機体が制御不能になると、バランスが崩れ、あのように回転を始める。
立て直そうにも、機体は操縦不能になる。
パイロットは脱出しようにも回転による遠心力で、キャノピー、操縦席を覆う透明な覆いを開ける操作が出来ない。
操作は普通の窓開けのように簡単だが、重力の数倍の力が加わる中、自分の腕に体重に匹敵する重りを付けたまま動かすのと同じ状況では、開けられない。
いきなり回転を始めたミグも同じ動きをしていた。
回転を止められず、脱出も出来ず、ミグは海へ墜落していった。
Mig15は優秀な機体だが、数少ない欠点として高高度飛行あるいは高速飛行中にスピンを起こす欠陥がある。
初期では多くのミグが同様の事故で墜落していった。
後期には改良されたが、今はまだ直されていなかった。
それでもジェットを装備した優秀な機体であるし、松本達のF51には脅威だった。
「このままだと援護が出来ない」
さらに拙いことに、水雷戦隊と煙幕から大和と武蔵が離れつつある。
このままだと再び砲撃戦が始まる。
現状では、大和が不利だということは、陸軍出身の松本でも損害の大きさを見れば理解している。
松本は焦り始めた。
「長官、煙幕が晴れます」
大和と武蔵双方が距離を取るように行動したため、煙幕からも遠ざかりつつあった。
水雷戦隊も自ら煙幕に撒かれたため、大和と武蔵の位置が把握できず取り残された。
大和と武蔵の間にあった煙幕じゃ南に置き去りにされ、大和と武蔵は互いに視認できるようになった。
先ほどより距離は離れているが、砲撃戦は無理ではない。
「砲撃再開だ」
猪口の命令で再び武蔵が砲撃を放つ。
視認していれば猪口に鍛えられた武蔵の乗員が優位だ。
大和の方は予算不足で、訓練が碌に出来ず、命中率が悪い。
勿論、アメリカの射撃指揮装置は優秀だが、訓練が足りなかった。
一方、武蔵はソ連に射撃指揮装置がないため、旧海軍時代の者をそのまま使っている。
そのため乗員は装置の扱いに慣れており、米海軍相手の実戦経験と猪口の指導もあって命中率は高い。
現状武蔵が優位に立っている。
その証拠に、砲撃の精密さは武蔵の方が高い。
猪口は黙ってその様子を見ていたが、内心は複雑だった。
かつての僚艦を攻撃するのは気が引ける。
だが、強大な戦うに足りる相手でもある。
しかし、技量が稚拙になっている。出来れば大和とは十全な状況で相手をしたかった。
だが、これも戦場の習いだ。
猪口は、トドメを刺すよう命じようとした。。
「大和に向け航空機複数接近! 双発です!」
だが、大和に接近する影があり見張りが報告した。
「何処の機体だ!」
「星を付けています! 北日本海軍航空隊です!」
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