零観 対 ヘリ

「くそっ」


 部下が落とされて松本は強い口調で悪態を吐く。


『畜生! 落としてやる!』


 仲間を落とされたパイロット達が、挑みかかろうとする。


「よせ! 二の舞になる!」


 強敵であるミグもいる中、速度を落として攻撃出来ないし、攻撃しても二の舞だ。


「上空から、一撃離脱で攻撃を続けろ。機銃は撃たなくて良い」


『それでいいんですか』


「俺たちの任務は大和の援護だ! 零観の撃墜じゃない! 奴が弾着観測が出来ないようにすれば良い」


 零観の回りを囲み、攻撃する、その振りをするだけで、零観は回避機動をとる。

 弾着観測のためには生き残るのが最優先だ。

 死んだら任務は遂行できない。

 零観に回避機動を強要して観測を邪魔するのが松本の作戦だった。

 旧式機相手に情けない作戦だが、仕方なかった。

 性能差が、低空での機動力が違いすぎるし、上空にミグという強敵がいる状況では他に取りようがなかった。

 だが、松本の目論見は当たった。

 零観は松本達の妨害により弾着観測できなかった。

 さらに零観に気がついた大和も進路変更を行い弾着観測データを無意味にして武蔵の砲撃から逃れる。

 松本に追いかけられた零観は逃れて、武蔵の方向へ逃走していった。

 だが、その途中で、零観は武蔵の回りを飛ぶヘリを発見した。

 自分たちが弾着観測を行っていただけに、武蔵の回りを飛ぶヘリの任務を零観の搭乗員達は、すぐに理解した。

 弾着観測が出来ないなら、武蔵への弾着観測を妨害する。

 零観はS51に狙いを定め撃墜するべく接近していく。


「させるか!」


 零観の狙いに気がついた松本は再び妨害しようとする。


『隊長! 新たなミグです!』


「畜生! 邪魔しやがって」


 新たなミグの出現で松本はそちらへの対処を強いられた。

 ミグの攻撃を回避しつつ、ヘリを見守るしか松本に出来る事はなかった。

 一方のヘリは自分たちが狙われていることを、攻撃されてから、はじめて理解した。

 当初は、見たことのない複葉機――ヘリのパイロットは太平洋戦争後の入隊であり、零観などのマイナーな機体を知らなかった。

 兎に角、飛行機に対しては、速度差を最大にするためホバリング、出来るだけ低空で停止して、敵機の射線から離れる事を念頭に対処せよ、と言われていたこともあり、彼等は指示に従い、海面近くまで降りた。

 これなら自分たちを攻撃するには海面近くまで降下しなければならず、海面に激突する可能性が高い。

 上空から攻撃するにも、機首を下げる降下することになり、海面近くまで降りることになる。

 引き起こしが遅れれば、そのまま海に激突だ。

 ヘリの特性を最大限に生かした方法だった。


「ダメだ! 海面から離れろ!」


 だが松本は悲鳴を上げるようにヘリに向かって叫んだ。

 確かに普通の陸上機ならホバリングの出来るヘリは海面スレスレに降りて攻撃を回避するのは良い対処だろう。

 しかし相手は零観。

 陸上機ではなく水上機だ。

 零観などの水上機が戦艦の艦載機に選ばれたのは、母艦が主砲などの装備が邪魔をして狭い甲板に降りられないため、海面に着水して収容できるようにするためだ。

 実際は外洋の波の荒さと、追撃戦、逃げる敵を追いかけるために収容する時間がないため放置されることが多々あったので、観測機達は事実上見捨てられた。

 しかし、今日の稚内の海面は静かだった。

 そのため、零観はヘリ近くの海面に着水すると、そのまま滑走。

 ヘリの真下まで接近していった。

 その動きに、海に激突することなく進み迫ってくる零観にヘリのパイロット達はは驚いた。

 本能的な恐怖から、零観を回避しようとしたが遅かった。

 既に零観は至近距離に迫り、離水するとヘリに狙いを定め、照準器に捕らえると機銃を放った。

 7.7ミリ二門では流石に非力なためレンドリースで余ったブローニング五十口径一門に換装された機銃はヘリには致命傷だった。

 ヘリは零観の攻撃で穴だらけにされて、機体がバラバラになり、海面に落ちていった。

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