50年の零観
武蔵を運用するにあたり 問題となったのは、大和同様艦載機、弾着観測を行う航空機だった。
第二次大戦前の戦艦の想定砲戦距離は戦艦自身が、目標艦の吃水を視認できる二万メートルが基準だった。
しかし、第二次大戦の砲撃戦では、レーダーや航空機による索敵技術向上の結果二万メートル以上の相互の最大射程で、あるいは索敵の失敗により懐に入られて、一万メートル以下に侵入されての近接砲撃戦となった。
これに対応するべくソビエツキー・ソユーズ級も舷側装甲の増加、後期建造艦の水平装甲の増強を行った。
だが攻撃となると問題が発生した。
ソ連の開発したレーダーの能力が射撃には十分ではなかった。
代替手段として航空機が検討されたが大艦隊を運用したことがないソ連において水上艦の搭載機はヘリか未開発なこともありほぼゼロ。
あったとしても第二位大戦前に作られた旧式機で十分な能力を持っていない。
新規開発しようにも当時のソ連は原爆搭載可能機か、アメリカからやってくる核搭載機迎撃のための迎撃戦闘機開発が優先されている状況だ。
数の少ない水上艦用弾着観測機まで手が回らなかった。
大海軍建設を指示したスターリンも流石に祖国防衛の為の機体を後回しには出来ない。
そのため現場は、猪口達北日本第一艦隊は旧日本海軍のが弾着観測に使用し、武蔵にも乗せられていた零式水上観測機を引き続き使用することにした。
複葉、下駄履きという太平洋戦争開戦当時としても古めかしい機体だったが弾着観測に必要な機材を搭載してる上、機動性があり活用できると判断されてのことだ。
ソ連軍は難色を、性能ではなく旧日本海軍機という点を嫌がった。
だが、猪口の一言と他に使用できる機体がない。
以上の観点から代替機が現れるまで、新型機へ交換するまでの間という条件で搭載が許可された。
武蔵の搭載機だけでは稼働状態を維持できないため樺太に残った機材と満州にあった、北山で少数生産されていた機体を掻き集めて載せた。
そのうちの一機が飛び立ち大和への弾着観測を始めた。
大和への武蔵の砲撃が正確さを増していく。
やがて大和の周囲に水柱が立つようになった。
「夾差」
武蔵の砲撃が大和を捕らえた。
後は確率論の問題だった。
その後の砲撃は猪口の腕が見事に発揮され、大和に命中弾が発生する。
流石に大和型、対四六サンチ防御のため大きな被害は出ていないが、撃たれ続けたら危険だ。
「させるか!」
松本率いる天風飛行隊が零観を撃墜しようとする。
しかし零観は速度を落として低空へ逃れる。
「畜生! 狙えない!」
低速の上、旋回性能が良いため撃墜できない。
おまけに低空にいるので、下手に狙おうとすると機首が下がり海面に突っ込んでしまう。
下手に速力を下げれば、ミグのジェット戦闘機に撃墜される。
『俺がやります!』
松本の若い部下である上田二等警察士が、低空へ下がり、速力を落として零観に迫る。
「よせっ!」
松本が叫ぶが遅かった。
F51が近づいて撃ってくると零観はヒラリと避けて躱した。
敵戦闘機の妨害を考慮し、格闘戦を要求された零観は機動性を高めるためにあえて複葉にされた。
その身軽さを最大限に生かし、素早く宙返りして、迫ってくるF51を真上から捕らえると、機銃を放った。
「上田!」
銃弾は見事、上田の機体に命中した。
零観の武装は7.7ミリ二門だったが、無力なのでレンドリースで余ったブローニング一門に切り替えた。
大口径に換装されたとはいえ五〇口径程度では防弾に優れたF51は落ちない。
しかし、零観のパイロットは優秀だった。
補助翼、主翼の先端に付いた、姿勢をコントロールする翼を穴だらけにした。
ここは人が動かすため、装甲化出来ず軽く、弱い。
『うわあああっっ』
上田の悲鳴が上がった。
補助翼は穴だらけとなり、機体制御が出来ず、回転を始めた。
「上田!」
松本は叫んだが、どうすることも出来ない。
「上昇しろ! 上昇してパラシュートでで脱出を」
しかし、回転した機体の中で、Gによってブラックアウトした上田の意識はなくそのまま回転して海に墜落した。
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