弾着観測
大和は、搭載機による弾着観測を前提に設計された艦だ。
これまでの艦載機はスペースの制限もあり、甲板上に露天駐機が殆どであり、アメリカであっても事情は変わらない。
だが大和は、艦内への収容を行った。
砲撃時、艦の外のに置いてあると、射線上に障害物が出来ることになり砲撃の邪魔になる。
また、砲撃の衝撃波により、機体が損傷する恐れがあった。
艦載艇にも同様の事が言えたため、艦載機も艦載艇も大和艦内に収容するよう設計されている。
だが、航空機の発展と、海戦の実情から、使用される事は殆どなかった。
航空機の脅威が大きくなったため、大和に対空機銃が増載されると、その要員の居住区として改造したのが艦内格納庫、最大の功績だった。
しかし、大和は航空機の進化により、活躍の場が、運用可能な状況が出来た。
「発艦準備急げ!」
煙幕による射撃中断を受けて、後部にある左舷舷側エレベーターが搭載機を載せて上げて行く。
舷側をぶち抜くのは防御上、良くないが、艦内と甲板のスペースを有効活用するため、あえて設けられた。
お陰で甲板に格納庫への開放口が無くなり、塞がれた場所は飛行甲板として、とても役に立っている。
また、接岸時に舷側エレベーターを埠頭まで下げる事で物資の積み込みを容易にしていた。
そのエレベーターに乗せているのはS51ヘリコプターだ。
ヘリコプターの開発は狭い甲板からでも発艦できることを可能にしており、発艦スペース、ローターが船と接触しない広ささえ確保出来れば運用可能。
空母艦載機が百メートル近い直線状の甲板を必要とするのに比べ、十数メートル四方で済むのは水上艦に取ってメリットだ。
形状にもよるが三〇〇〇トン程度の船体から航空機運用できるのは、多くの水上艦にとって福音だった。
排水量が七万トンもあり、水上機用の甲板も格納庫もある大和にとってスペース確保は容易だった。
エレベーターから下ろされたS51はローターを展開すると、エンジンを始動させ洋上へ飛び立ち武蔵に向かって行った。
彼等の任務は重要だった。
武蔵からの正確な砲撃を受けて大和に損傷が発生、バイタルパートは無事だったが、射撃指揮装置、レーダーとの連動装置が故障してしまった。
大和の優位を保障するアメリカ製レーダーを突貫工事で取り付けたが、十分な試験を行えず、まして戦闘時の機能維持に不熱心な日本の悪癖が出てしまった。
そのため、昔ながらの光学照準で行っていたが、煙幕で不可能。
ならば、航空機による弾着観測しかなかった。
ヘリの搭乗員は危険だが行くしかない。
このままでは大和の損害が増え、乗員に死傷者が出るのだから。
彼等は三千名以上のの乗員のために煙幕を越えて飛んでいった。
「上空に機影……未確認飛行物体発見!」
「報告は正確にしろ」
見張りの報告に武蔵の副長は叱咤する。
「しかし、見たことのない形です」
「なに?」
見張りの示す方向を副長は見た。
「何だあれは」
見た瞬間、思わず副長も驚きの声を上げる。
「ヘリコプターだろう」
一人冷静な猪口は事実を述べる。
南側がヘリコプターを大量に導入したことは、報告を受けている。
実際に見るのは猪口も初めてだが、狭いスペースから発艦できる特性を生かして運用されるのは容易に予想できる。
「弾着観測を行うのだろう」
猪口の言葉を肯定するように、武蔵野周囲に砲弾が落ちた。
明らかに観測誘導されていた。
次の斉射は武蔵を囲むように放たれている。
「弾着観測機を、どうにかするべきだな」
「はい、航空隊に命じて撃墜を命じます」
副長の言葉を猪口は難しいだろうと思った。
事態は猪口の予想通りに進んだ。
時速数百キロで飛べるジェット戦闘機だが、ほぼ停止状態になれるヘリを相手にするには速度差が大きかった。
低速にしようとしてもジェットは元より高速飛行のために失速速度は高く、ヘリに合わせようとすると、墜落の危険があった。
それでも撃墜しようと無理をして速度を落とした機もいたが悲劇が訪れる。
「仇を取らせて貰うぞ!」
稚内近辺に整備された野戦飛行場を発進した松本率いる天風飛行隊が艦隊上空に到達し、上空援護を行い始めた。
低速に落としていたミグ戦闘機は、松本達が操るマスダンクの餌食となって撃墜された。
「やってくれよ大和!」
大和が撃破してくれることを願って松本は叫んだ。
それに答えるように、大和はヘリからの観測データを元に射撃を開始した。
正確な射撃で武蔵へ寄っていく。
武蔵も修正しようとするが、弾着観測機が国連軍機に襲われている状況では碌に観測できない。
やがて、武蔵の近辺に砲弾が着弾するようになる。
至近に砲弾が着弾し水柱が上がるが猪口は動揺せず、泰然自若としていた。
時折回避を命じるが、静かなままだ。
一方的に撃たれている状況だが、まだ逆転の見込みはある。
「何とか弾着観測だけでもどうにか出来ないか」
武蔵副長が呟くが致し方ない。
猪口は静かに待った。
望んでいる事は猪口も同じだが、静かに待った。
そして、彼等の望みを叶えるように一機の機体が大和の弾着観測機に迫った。
しかし、その姿を見た松本達は戸惑う。
飛んできたのが複葉のフロートを付けた水上機、零式水上観測機だったからだ。
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