日本のヘリコプター部隊
「あのカトンボは役に立つのか?」
とある米海軍の艦長がパタパタと音を立てて飛んでいく機体を見て副長に言う。
「確かにヘリコプターは搭載力が小さいです。しかし、狭い艦艇で使うには良いですよ」
「ジャップ共には丁度良いな」
終戦後、連合国により日本は航空機の開発、生産を禁じられた。
だが航空関係者はあの手この手で航空機の技術を手に入れようとしていた。
三菱や川崎、富士などかつての航空機製造会社は極東米軍の航空機の整備、修理の請負などで細々と生き残った。
中共内戦が再発し、国民党政府から航空機の修理を依頼されるとGHQ黙認の元、中華民国空軍の機体を修理、整備するなどして一息入れることが出来た。
日本の再軍備で、航空部隊の建設が行われ航空産業の復活が期待された。
だが、所属機は米軍の余剰機が殆どであり、新たな製造は行われなかった。
流石に製造技術まで、あるいは余剰品があるのに新規生産など、軍事強国日本の復活に繋がることを米国政府は許さなかった。
しかし、シコルスキーの登場で風は変わった。
新型機のヘリコプターを開発し納入したシコルスキーだったが、軍縮により受注が減っていた。
そこで、新たに新設される日本の軍隊に売り込みを図った。
シコルスキーの中では生産力が足りないが、日本の航空産業は余剰能力がある。
ライセンス生産すれば、ライセンス料がシコルスキーに入るし、日本側としてもヘリとは言え航空機製造の経験が手に入る。
あわよくば、極東各国へ売り込み――機体のみならず、販売後も整備や修理、改修などのアフターサービスでサービス料が手に入る事を期待しての事だ。
アメリカ当局からは航空機開発、製造の禁止に抵触すると言っていたが、航空機にヘリコプターは含まれないと強弁して押し通した。
かくして日本の三菱重工の工場で戦後初の航空機、ヘリコプターが製造された。
生産されたS51は警察予備隊、及び海上警備隊に配備され、狭い日本、急峻で山がちな国土にマッチしていたこともあり、大いに活躍した。
喜んだ日本の当局は、早速S51の追加製造を行い各地に配備。
利便性を喜んだ警察予備隊はヘリを集中運用する第一ヘリコプター団を発足させ、ヘリに乗り込み空中移動する空中機動隊を生み出す程だった。
勿論、生産された一部は当初の目論見通り、民間や東アジア各国への販売を行っており、外貨獲得成果を上げていた。
シコルスキーが新型の開発製造を促進する決断を下すくらいに、実地試験の場として日本を、製造及び運用の最重要現場として選ぶくらいだった。
「S51は確かに小さいですがシコルスキーの新型は中々ですよ」
副長の言う49年に初飛行した新型S55はS51の四人乗りに比べ、十人乗りと格段に大きくなっていた。
性能の高い事を喜んだ日本は早速S51のラインを転換してS55を大量にライセンス生産させた。
そして戦争が始まると、工場で納入待ちとなっていた機体は勿論、民間に売られた機体をも集め、上陸作戦に参加させていた。
「少なくともLSTで兵員を輸送するより良いでしょう」
「十人しか乗れないのだろう」
「ですが、海岸に乗り上げる必要なく、海岸より遠い陸地へ行けます」
ヘリコプターは、空を飛ぶため地形、海の状況にかかわらず、空中移動する事が可能だ。
これは非常に大きい。
陸地の敵に見つからない水平線の向こう側から発進し、海岸線を越え、敵陣地さえ飛び越え重要地点である高台へ、パラシュート降下無しに――パラシュート技能が不要な上、降下中風に煽られて兵隊がばらけることがない、と言う利点を生かせる。
実際、空挺部隊より、あとにも関わらず、定数で集結――部隊全員が落伍することなく集まることが出来たのはヘリで空輸された部隊という例が多かった。
「専用の母艦も用意するなど、徹底しています」
「大戦の時に余った余剰品だろう」
艦長は口汚く言ったが事実だった。
小型すぎて大型化する艦載機に対応出来ない雲龍型空母群にとって、滑走距離が不要なヘリコプターは運用に最適だった。
彼女らはサイドエレベーターの設置などが行われヘリコプター母艦として新たに就役していた。
「ですが、役に立っていますよ。広い甲板は一気にヘリを飛ばすのに役立っています」
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