極東戦争のアメリカの事情
「何故大泊への攻撃を止めさせるのだ」
東京のGHQではグルー大使にパットンが詰め寄った。
「繰り返しの攻撃は軍事の基本だ」
アメリカ政府が大泊への再攻撃を禁止したことにパットンは腹が立っていた。
特に頭ごなしで命じてきた国務省には怒りを抱いており、国務省からやって来たグルーに怒りの矛先を向けた。
しかし、元々外交官であり国務省にいたグルーは、本国、所属する国務省からの要請を受ける立場であり、度々外交関係上の問題から板挟みになることが多かった。
今回はそんの一例だ。
「合衆国はソ連との戦争を避けたいと考えております」
「そんな弱腰でどうする」
「ソ連による東海岸攻撃を恐れているのです」
合衆国本国は、ソ連のアメリカ東海岸への攻撃を恐れている。
日本の伊400型を元にした潜水空母から放たれる艦載機や巡航ミサイルによる細菌兵器攻撃、あるいは開発されたかもしれない小型原爆による破壊を恐れていた。
ソ連と開戦はできる限り避けたい。
先の戦争で、日本軍による東海岸攻撃、ワシントン空襲は、合衆国政府の要人にトラウマとして記憶された。
日本との戦争は終結したが、その時、ワシントンを空襲した潜水艦はソ連領内に逃げ込み、降伏している。
ソ連はそのまま潜水艦を接収し、ソ連海軍内で運用している。
長大な航続距離で大西洋を横断し東海岸至近で艦載機を放てばワシントンも空襲できる。
しかも、この潜水艦を建造した満州の大連はソ連の影響下にあり、生産と補給整備も行われている。
搭載機の生産工場もあるため、戦力の維持に支障は無い。
悪い事に最近になってソ連国内でも潜特型のコピー生産に成功し、大量配備が行われてる事実が判明した。
海軍が縮小されていても、東海岸の防備はワシントン空襲の教訓もあり、厳重に行われている。
しかし、近年増強されてるソ連の航空機搭載潜水艦の増勢からして、アメリカに探知されずにいるソ連潜水艦の一隻や二隻は東海岸近海いると推測されていた。
アメリカの探知から漏れた艦が搭載する機体が発進しワシントンを空襲した場合、甚大な被害が、要人暗殺などを目的とした襲撃があることがアメリカ政府の恐怖であった。
一般市民への被害も予想されていた。
さすがに原爆搭載は現状無理だが、いずれ小型化がなされるだろう。
原爆は実用化されていなくても化学兵器は細菌兵器の使用は十分に考えられる。
ソ連に対して強く出れないのは、このためだった。
そのため、ソ連に刺激を与えないよう自重するよう国務省からの訓令が来ていた。
「ソ連との戦争はできる限り避ける。これが合衆国政府の方針です」
その事を伝えるだけでグルーは精一杯だった。
「それで、どうしろというのだ。まさか上陸作戦もやるなとは言わないだろうな」
「いいえ、天塩への上陸は構いません」
「他はダメそうだな」
「樺太への上陸作戦は、止めて貰いたいとの事です」
「南北を統一する好機だぞ」
パットンは再び激昂した。
天塩上陸作戦が上手くいけば、来年春、短期間で目標が達成できれば、この秋には実現できそうな、樺太上陸作戦、北日本制圧計画が中止されるなど、腹立たしかった。
「ですが北樺太はソ連の領土であり、ソ連と国境線を接することになります」
警備用、直接対決した場合の対応戦力を樺太に割くなど兵力不足の現状の国連軍には厳しい。
「南樺太も表向き独立国と認められていますが、事実上、ソ連の領土と見なして良いでしょう。そんなところを占領すれば、ソ連軍と対峙することになり、大規模な守備兵力と、武力衝突の危険を常に抱える事になります。新たな対峙線を作る事は避けて貰いたい」
「願望ばかりだな」
「申し訳ないと思っています。しかし、将来の紛争の目を、合衆国と日本の若者が死なずに済むようにしたいのです」
「そのためにも、この戦争に勝って、北海道からアカをたたき落とすのに大泊を、連中の策源地を繰り返し攻撃するべきだろう」
「ソ連の参戦を招きかねない誤爆、誤射を許す訳にはいきません。どうか、自重してください」
「ふん」
パットンも準備不足の状況、ワシントンのアホ共が急速に動員解除したため絶対的な兵力が少ない状態で戦う事が愚かしいことは分かっている。
現在は、ソ連の衛星国のみが相手なので何とかなっている。
だが、ここにソ連が本格的に参戦すれば、国連軍優位の戦況が崩れる。
密かに偵察、西側の港に停泊して情報収集を行い、交戦国に送るのも腹立たしい。だが、この程度で済んでいるのはソ連が参戦していないからだ。
ドイツ軍を撃破したソ連軍と正面対決することを米軍は避けたいと考えていた。
だがパットンはその辺の事情を理解しても、自分の指揮下の戦場で部下に不利な戦いを強要する気はない。
「で、天塩上陸作戦は実行して良いのか」
「構いません」
「既に実行の許可は出している。今更撤回はしない」
グルーとニミッツは上陸作戦に賛成した。
北海道を完全制圧、北日本を叩き出すだけでも、北の守備兵力を減らすことが出来るだけでも今後の戦いを有利に進めることが出来る。
だからこそニミッツもためらわず命令した。
「第七艦隊に命令、ブルーハート作戦、天塩海岸上陸作戦は直ちに実行せよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます