大泊奇襲の被害
「戦艦二隻撃沈か」
上空から自らの戦果を確認した南山は満足した。
ソビエツカヤ・イポーンは、無事なようだが吃水の深さ、甲板が波に洗われている以上着底、航行出来ない状態であるのは間違いない。
これ以上の攻撃は不要だ。
「だがもう一隻……<解放>はどうしようもないな」
五年前ならまだしも、今のパイロットは実践経験のない新米が多い。
あれだけ巨大な艦でも百戦錬磨の艦長が指揮する戦艦では回復行動がうますぎて全弾回避される。
攻撃位置に持ち込む前に転舵して避けられてしまう。
アメリカ機動部隊艦載機部隊の攻撃を回避するため、散々避ける訓練をしてる。
命中させるだけでも至難の技だ。
実際、<解放>を攻撃した攻撃隊は放った全ての魚雷を回避され一本も命中していない。
それどころか対空砲火の反撃を受けて接近どころではなく、照準が狂い、回避を容易にしていた。
しかも敵は態勢を立て直し反撃し、撃墜される機体も出ている。
空母へ攻撃を仕掛けている攻撃機もいるが、此方も回避行動で避けられてしまっていた。
「やはり素晴らしいな」
敵であっても素晴らしい回避行動を目にしては南山には称賛の言葉しかない。
「攻撃は終了した機は帰還しろ。再攻撃を行う」
南山は部下に命じて反転し、飛び立った母艦、空母信濃に向けて飛んでいった。
「長官、被害が纏まりました。ソビエツキーソユーズはダメです」
部下の報告にゴルシコフは苛立った。
言われなくても分かっている事だ。
転覆しては、元の状態、復元させるだけ数ヶ月、一年以上はかかるだろう。
ドックに入れて修理するのはその先。
あれだけの被害を受けては運良く修理できるとしても数年はかかる。
真珠湾攻撃ではオクラホマが転覆横転し、元の姿勢に戻すのに一年以上かかっている。
工業力の低い、ソ連では不可能かもしれない。
そしてアメリカでさえ、オクラホマの修理を断念している。
少なくとも、この戦争では戦力としてソビエツキー・ソユーズはアテにならなくなった。
「本艦は?」
「着底した後、一本食らって被害甚大です。ですが、それ以外は無傷です。破孔の位置も比較的高く、塞げば浮揚できます」
それが唯一の慰めだった。
「ソビエツカヤ・イポーンの修理に全力を尽くせ」
時間は貴重であり、国連軍の上陸が迫っている今、迅速に損傷を復旧して戦列に復帰させる必要がある。
「大泊の海軍施設が、工廠施設にも大きな被害が出ています。再建するには時間が掛かります。修理などとても間に合いません」
「ソ連商船の中に、工作機械がある。それを使って修繕させろ」
「わかりました」
空襲が終わってから陸上に工作機械を据え付け、修理させれば良い。
場合によっては、商船の中で、工作艦同様に改装されているので部品を作り提供させる。
中立違反だが、工作機械を鉄くずを売却したことにすれば回避出来る。
「長官、<解放>より行動の自由を求める通信が入っています」
ゴルシコフは顔を歪めた。
自分の指揮下から離れようとしていることが許せない。
だが、<解放>は唯一残った戦力だ。
沖合に退避していたのが幸いし、回避に成功。
ほぼ無傷だ。
だが間もなく、国連軍の再攻撃もあるだろう。
この状況では行動の自由、退避させるしかない。
「許可すると言え」
本当ならしたくないしソ連海軍大将としての面目もある。
本来なら移乗して指揮したいが、攻撃が迫っていると思われる今、停止させてしまっては退避が遅れ、撃沈されるかもしれない。
被害を局限化するためにも、迅速な避難、行動の自由を許すしかなかった。
「唯一の戦力か……」
離れていく<解放>を見てゴルシコフは呟いた。
大泊の工廠なら、ソビエツカヤ・イポーンの修理は出来る。
破孔を塞ぎ、浮揚させるだけなら一週間で済むだろう。
だが、国連軍が、そのような修理を許すだろうか、工廠への攻撃も行い復旧を邪魔するに決まっている。
結局、<解放>に北日本、ひいてはこの戦争の運命を託すしかないとゴルシコフはこの時考えた。
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