ソビエツキー・ソユーズ被雷

 ソビエツキー・ソユーズが受けた雷撃による激しい爆発にゴルシコフは思わず伏せた。

 至近距離での爆発ため巨大な水柱が上がり、ソビエツカヤ・イポーンに乗っていたゴルシコフに水飛沫がかかる。

 その中でも任務に邁進していた見張りが状況を凶報を伝えた。


「ソビエツキーソユーズ被雷!」


 分かっていた。

 魚雷が命中し水柱を上げたところを見て伏せたのだ。

 だが何時までもグレーチングの床に伏せているわけにはいかない。

 身体を起き上がらせ、状況を確認した。

 だが、嘆きしか出なかった。


「なんてことだ」


目の前でソビエツキーソユーズが傾斜している。


「どうして、傾いているのだ」


 ソビエツキーソユーズはアイオワどころか大和さえ上回る七万トン超の大きさであり、船体相応の堅牢な設計だ。

 計画上は魚雷を二本ぐらい受けても大丈夫だ。

 五本の魚雷を受けたとしても、あんなにも傾斜するのはおかしい。

 だが現実は非情であった。

 戦後、再設計されて、建造されたソビエツキーソユーズだったが、陸軍国であったため、まともな海軍運用の経験がなかった。

 特に第二次大戦で大艦隊の運用、特に戦艦の運用――その中には損傷への対処を含む経験がソ連にはなかった。

 そのためダメージコントロールの設計が改修された設計に盛り込まれていない。

 命中した魚雷は各所で浸水を発生させる。

 ソビエツキー・ソユーズの艦内では急ぎ隔壁が閉鎖される。

 だが、ソ連の工業力では、ウォッカを飲んだ作業員が作り上げた隔壁は歪んでおり、本来起こりえない浸水が発生。

 溶接技術、作業の未熟から残った隙間からも水が入り込む。

 配管も外れて浸水を防ぐことはできなかった。

 たちまちのうちにソビエツキー・ソユーズの浸水は拡大する。

 さらに後続の機体が次々と魚雷を投下し最終的に五本の魚雷が命中し破孔を拡大。

 爆発の衝撃で構造的に弱い部分にも亀裂が入り、浸水が増大。

 急速に傾斜は増してゆく。

 通常ならここで傾斜回復、注排水装置を使い、反対舷のタンクに海水を流し込み、水平を保つ。

 大泊は、水深が浅いため、吃水が深くなっても着底のみ。

 後日、破口を塞ぎ、排水すれば復旧する可能性はあった。

 だが、ここで二つの問題により、悲劇は発生した。

 まずソビエツキー・ソユーズの艦長が、注水を許可しなかった。

 スターリンが力を入れて建造した艦を損傷させてしまって動揺していたのも理由だが、注水して吃水が深くなり、着底、行動不能になるのを恐れた。

 国連軍が迫ってくる大事な時期に艦が動けなくなる、その責任を追及されることを、艦長解任、軍籍剥奪、シベリア追放、最悪銃殺を恐れた。

 スターリンは海軍に力を入れていたがその分、失敗に対する処罰も強いと考えていた。

 非常にソ連的な理由だったが次の原因もソ連的な理由であった。

 急速に増していく傾斜をみた防御指揮官である副長が独断で反対舷への注水を命じた。

 だが、出来なかった。

 注排水装置が設計上のミスで振動に弱く、製造時の作業員の能力不足により出来た不具合もあって、雷撃の衝撃で故障。

 注水不能となった。

 最早ソビエツキー・ソユーズが傾斜を復元する方法は無く、破滅まで傾斜は増していく。

 結果、ゴルシコフの目の前でソビエツキー・ソユーズは陸側に向かって転覆した。


「なんてことだ。たかが数機の航空機に……」


 手練れとはいえ、たった四機の攻撃機に戦艦を転覆させられたことが信じられなかった。

 だがこれが航空機の威力だった。

 しかし、航空機はまだ残っており被害はソビエツキー・ソユーズだけではなかった。


「敵機! 本艦に迫ります!」


 ソビエツキー・ソユーズが転覆したのを見た後続のスカイレーダーが狙いをゴルシコフ座乗の旗艦ソビエツカヤ・イポーンに狙いを変更し向かってきた。


「対空砲! 迎撃だ! 接近する敵機を撃墜しろ!」


 すぐに対空砲火が向けられ、高角砲などの大口径対空砲も放たれる。

 だが、甲板より低い位置から接近するスカイレーダーに当てることは出来なかった。

 絶好の射点、至近距離から魚雷を投下した。

 四本の魚雷が投下されるが母機の急激な機動により三本の魚雷は機能不全となり、海底に突き刺さるか迷走した。

 しかし、残り一本の魚雷がまっすぐ向かってくる。


「敵魚雷接近!」


 見張りの悲鳴じみた報告が流れた瞬間、魚雷が命中しソビエツカヤ・イポーンの船体が大きく揺れた。

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