ソビエツキー・ソユーズへの雷撃
「敵機、ソビエツキー・ソユーズに接近!」
見張りの報告、経験の浅いソ連海軍では珍しく目標発見に優れる士官が報告する。
ゴルシコフも信頼しており上空を必死に目を皿のようにして敵機を探す。
だが、敵機の姿が見えない。
「どこにいる! 見えないぞ」
停泊している商船が邪魔である事も理由だが、攻撃できる方向にいる機体は居ない。
「街の中を飛んでいます」
ゴルシコフは、見ていた方向、海側とは反対側、市街地に目を向ける。
「いないではないか!」
上空を見ても他の目標へ向かう機体はあってもソビエツキー・ソユーズへ攻撃態勢に入っている機体はいない。
陸上側から行ったとしてもソビエツキー・ソユーズを攻撃しようとすれば、飛び越えた爆弾やロケット弾がソ連商船に当たる可能性もあり、攻撃してくる機体はいない。
ゴルシコフは誤報だと思い怒鳴りつけようとした。
「接近してきます! 敵機は町の通りを! ビルとビルの間を飛んでいます」
「そんな事があるか!」
戦後の都市計画で共産主義の優位性を見せつける為、住みやすい市街地になっている。
大泊市庁舎、大泊のシンボルとしてモスクワのセブンスターズ並みの高層建築物を除けば建物は可能な限り低く抑えられ5階以下だ。
通りは緑地としても活用出来るよう100メートルの広さにしてあるが、とても飛行機が通れるような幅では無い。
そんな事はあり得ないと考えていた。
「なっ」
だがゴルシコフは言葉を失った。
敵機が低空、5階建てビルの屋上よりも低い高度を飛んでこちらに向かってくる。
「まさか本当に雷撃するつもりか」
攻撃できるか疑問だ、陸からは一キロも離れていない僅か数百メートルしか無い距離で雷撃など不可能ではないか。
だが、ゴルシコフは思いだした。
日本の攻撃機は先の大戦で確実に魚雷を空母に命中させるため二〇〇〇メートルの所を一〇〇〇メートル前後、時に数百メートルまで近付き、攻撃後は米空母の甲板を飛び去っていったことを。
アレはアメリカの飛行機だが日本のパイロットが、もしかしたら太平洋戦争で空母を雷撃したパイロットが乗っているかもしれない。
実際、敵機は町の通りを飛び抜け、岸壁を越えた。
海に出て更に高度を下げて、接近する攻撃機を前にゴルシコフは恐怖を感じた。
そして命じた。
「対空砲! 何をしてる! 直ちに反撃しろ! 敵を撃墜するんだ!」
激しい対空砲火が南山達雷撃隊に向けられた。
「敵さん驚いているようだな」
対空砲火の雨を目の前から浴びていたが南山は平気だった。
激しい銃撃だが、甲板より下を飛ぶ南山の遙か上空を飛び去っていくだけであり危険はない。むしろ、市街地への流れ弾が心配だ。
しかし、それもどうでもよくなる。
「懐かしい感触だな」
操縦桿から伝わる、機体の動きに、海面近くを飛ぶ感触を楽しんでいた。
十年近く昔、真珠湾攻撃の時、アメリカ海軍の施設よりも低い高度で南山は飛んで行った。
屋上から自分を見下ろすアメリカ兵の驚いた顔が今でも忘れられない。
それをもう一度、ソ連に、露助共に見せつけることができるのは最上の喜びでしかない。
『隊長! 低すぎませんか! もっと高く飛びましょう』
技量が優れていることを見込んで入れた新人が怯えながら言う。
「真珠湾はこんなものだ。それに低くしないと危険だぞ」
南山は意に介さない。
新人とはいえ一応、大戦での雷撃経験があるが、末期のインド洋だけ。
対空砲火がまばらな英軍相手では対空砲火も米軍ほどではなく、高い高度で雷撃できた。
狂っていると部下は思ったが、上空を対空砲火の光りがギルの上空を通り過ぎるのを見て黙り込んだ。
静かになり南山は戦艦に接近する。
だが、高角砲、大口径対空砲の射撃が始まり、通り沿いのビルに着弾して破片が飛び込んでくる。
「市街地に撃つなんて正気か」
軍港都市とは言え、民間人もいるのに気が狂っている。
「そんなに酷い事をするなら俺が引導を渡してやる」
南山は通りを飛び抜け岸壁を越え、海に出る。
すかさず機体を海面スレスレまで更に降ろし、撃ってくる戦艦に狙いを付けて攻撃した。
「魚雷発射!」
投下ボタンを押すと、機体下部に吊り下げられていた魚雷四本が時間差をつけて落とされる。
スカイレーダーの武器搭載量三.二トンを最大限に生かした、八〇〇キロ魚雷四本による同時攻撃だ。
しかし、やはり無茶だった。
南山の操縦は完璧だったが急激な機動に魚雷のジャイロスコープが追随できず機能不全を起こしてしまい、一本は迷走、もう一本は海底に突き刺さった。
だが、二本の魚雷が目標に向かったのは大きな成果だった。
他の機体が投下した魚雷はどれも一本しかまっすぐ進まなかった。
だがそれで十分だった。
残りの魚雷、南山指揮下の三機のスカイレーダーが放ち、まともに航行した五本の魚雷がソビエツキーソユーズの船体に命中した。
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