南山の感慨
「報告通りだったな、ソ連船籍の商船が停泊してる」
国連軍が攻撃できないように、表面上中立国であるソ連籍の船を大泊に停泊させることで攻撃できないようにしていた。
だが、攻撃可能ならば攻撃せよ、と命令を受けているし、事前の偵察で配置を把握していた南山は攻撃できる自信があった。
「しかし、因果な商売だぜ」
南山は一人愚痴るがむなしくなるばかりだ。
本来なら受け答えてくれるペアがいるがいない。
このAD1スカイレーダーは一人乗りだからだ。
確かに操縦員と偵察員、二種類の人間を訓練するのに時間も費用も掛かるし、ペアを揃えるのは大変だ。
一人で全てを行えるなら構わない。
おかげでやることが一杯だ。
操縦だけで無く、通信に航法、しかも南山は隊長なので編隊の指揮も行わなければならない。
ペアの数を減らすのも考え物だ。
それに米軍の機体に乗るのはおかしな気分だ。
「まあ、機体は良いがな」
扱いやすく、スピードも出る。
操縦もある程度は自動化され負担が少ない。
そして 極めつけは暴力的な武器搭載量。
陸攻は勿論、米軍の重爆にも匹敵する。
「俺たちだけでもやってやれるぜ」
太平洋戦争は激戦に次ぐ激戦で雷撃隊の損害は多かった。
海上警備隊に復帰したパイロットの中に雷撃経験者は、南山を含め二〇に満たない。
復員して、新たな仕事に行ってしまった人間が多いし、単純にパイロットとしての年齢が上がってしまいパイロットとしての旬が過ぎた事も大きな理由だ。
他にも、それだけの練度を持つ人間は教官として必要不可欠という理由もある。
だが海上警備隊はまだマシな方で縮小しすぎた米軍はもっと少ない。
結局揃えられたのは一個中隊一二機のみ。
だが選りすぐりを集めた。
南山をはじめ、真珠湾にも参加したことのある生粋の雷撃屋が集まっている。
「露助の軍艦を、仕留めてやるぜ」
多くの攻撃隊は大泊の海軍施設の攻撃だ。
軍艦への攻撃は、ソ連船舶への被害が及ぶ可能性がある場合、禁止されていた。
攻撃した場合、誤射や爆弾が逸れて被弾した場合のペナルティも課されている。
このため、多くの機は対空陣地や陸上施設、航空基地、レーダー基地、海軍工廠や燃料タンク、物資倉庫への攻撃。
そのため純粋に艦船攻撃を命じられたのは南山たちの攻撃隊だけだった。
一応予備の雷撃機もいるが、彼等は大戦末期か、新たに編成された雷撃隊で訓練されただけで技量は南山に遠く及ばない。
今回の任務を、いや特殊飛行を遂行するのは無理だ。
外洋にいる明白な参戦国艦船がいた時、攻撃するよう命じている。
『出港しようとしている艦があります』
無線で報告した部下が発見した艦を観察する。
だが、南山は自身での攻撃はやめることにした。
「あれは回避行動をするために、沖合に出ようとしてる。今、攻撃しても回避されてしまう。それに、むさ……あの艦<解放>の艦長は回避行動がうまい」
南山は苛立ちと、同情などが入り交じった感情で自然と低くなった声で命じる。
「停泊してる他の戦艦を狙う」
周囲に商船が停泊しているが、攻撃できないわけではない。
整備されたばかりの港で水深はまだ浅く、大型艦は埠頭ではなく沖合に停泊してる。
「予定通り、陸側から攻撃する」
事前偵察、偵察型B29の写真撮影とそれを元にした研究で当初から陸地側から攻撃する事は決めていた。
攻撃前日の写真でさえ、撮影後すぐに艦隊へ輸送機が飛び、艦隊に写真とフィルムを提供して最新の状況を伝えていた。
以上の手はずを整えたのも佐久田だ。
おかげで計画に変更が無い事を、混乱を最小限に抑える事に成功した。
あいかわらず北側は海側からの攻撃を警戒して海側のみにソ連の船が停泊している。
これが陸側から攻撃する理由だ。
「突入する、ついてこい」
『無茶な攻撃です、雷撃の機会があるかどうか』
「真珠湾より簡単さ」
開戦の時、鹿児島湾での猛訓練を経て真珠湾を攻撃した南山が言う。
「機体の性能も上がってる、うまくいく」
南山もこの攻撃が無茶だということがわかっていた。
しかし、雷撃のチャンスは今この時、この方法しかない。
南山は編隊を陸側に回らせるとゆっくりと目標を定める。
そして停泊地へ向かって一気に突入する。
真珠湾攻撃と同じだ。
突入したら、可能な限り低空を海に出るまで、突っ走る。
海に出たら、さらに降下して、機体の姿勢を調整し、狙いを定めて、魚雷を発射。
十年も前にやったことだ。
もう一度出来ると南山は自分に言い聞かせる。
「全機突入! 我に続け!」
南山は操縦桿を倒して機体を降下させ、僚機の先陣を切る。
部下たちも南山に続いて突入する。
旋回している間に南山は目標を探す。こういうときは停泊していた内の手近な艦がよい。
なので、自分の機体に近い艦ソビエツキー・ソユーズに狙いを定めた。
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