ゴルシコフの想定
米帝、南の上陸作戦。
幕僚達はゴルシコフの話しに驚き、食い入るように視線を向ける。
彼等の期待に応えゴルシコフは北海道の海域が載った海図を見せ、幕僚達に説明した。
「日本各地の港で米帝と傀儡の部隊が乗船している事が確認されている。朝鮮半島へ行くことも考えられるが、日本軍が含まれており、反日の南朝鮮が受け入れるとは思えない」
李承晩の反日姿勢はソ連でも有名であり、最初は偽装かと考えられていたが、就任して以来一貫しているため事実だと断定していた。
「国連軍は部隊を北海道あるいは樺太のいずれかの地域に上陸するだろう」
海上輸送ほど大量の物資を運び込める手段はない。
米国の東アジア戦略を考えれば、北海道を優先するのは確かだ。
問題は何処に上陸するかだ。
「順当なら、苫小牧か室蘭あたりに上陸させ旭川方面への増援とするだろう」
ゴルシコフの考えは、用兵上正しいやり方だ。
今ある戦線が維持できるよう兵力を増強するのは手堅い手だ。
だが、今の米帝が正攻法で攻めてくると考える人間はいなかった。
ソ連人特有のアメリカへの偏見もあるが、戦争で日本軍の意表を突く作戦を実行してきたアメリカ軍が真っ正面から来るとは考えていなかった。
何より、人の裏をかくことはロシア人は好きで、相手も自分たちに奇襲をかけるのではと思い込んでいたからだ。
「敵は、我々の後方、天塩か浜頓別。もしかしたらこの樺太に上陸する可能性もある」
投機的な作戦だが賭けるだけの価値はある。
そして、パットンはこの種の賭けを行う、猪突猛進型だ。
北日本陸軍の主力、全てが南下している今、後方はがら空きだ。
特に樺太は兵力は殆どいない。
ここで後方への上陸作戦を行えば、主力軍は後方支援を失う。
それどころか樺太に上陸すれば、北日本を滅ぼし南に武力編入する機会が与えられる。
朝鮮半島か中国へ向かうとは思わない。
北海道は米本土と東アジアを結ぶコース上にあり、失う事は避けたいはずだ。
だから北海道の防衛、北日本の撃滅が最優先。
この戦争を一挙に終わらせられる作戦を米帝は狙っているとゴルシコフは判断した。
「我々はこの事態を防ぐべく出撃し、上陸前の米帝の艦隊を撃滅する」
幕僚の間に安堵が流れる。
津軽海峡攻撃より遙かにマシな作戦だった。
「予想される戦力は米帝の艦隊のみと考えられる。米本土からやってきたテキサス級という最新鋭艦と、エセックス級二隻、改ミッドウェー級二隻。それに巡洋艦と駆逐艦の支援部隊だ。この程度なら我々でも勝てる」
司令部び雰囲気が一挙によくなった。
第二次大戦で膨れ上がった米国海軍だが、膨らみすぎて維持費が掛かりすぎる。
そのため終戦後は、急速に縮小され、空母さえモスボール処理、予備艦となりすぐに動けない。
また戦後陸軍から独立した空軍が原爆を装備し、世界中へ核攻撃可能と喧伝し、海軍不要論を唱えたため、海軍の縮小は更に進んだ。
対してスターリンの号令により大海軍建設が進んだソ連海軍は増強を続けた。
特に旧日本海軍の技術を受け継ぐ満州国と、その一部を移植された北日本は大量の艦艇を建造。
ソビエツカヤ・イポーンをはじめとするソ連海軍艦艇の建造を一部請け負うまでになっている。
結果、洋上に浮かぶ東側艦艇は赤衛艦隊だけでソビエツキー・ソユーズそしてソビエツカヤ・イポーンの二隻の戦艦、クロンシュタット級巡洋戦艦二隻が揃っている。
さらに嚮導駆逐艦タシュケントに駆逐艦が数隻居る。
他にも戦艦<解放>を有する第一艦隊があり戦力的には圧倒的に優位だ。
ニミッツが雇用維持のため、北に旧海軍軍人が出奔するのを防ぐ為、旧海軍艦艇を維持するのを認めたのは、アメリカ海軍の代わりに旧日本軍の艦艇を活用して減った数を補うためだが、東側の艦艇増強に対する危機感も間違ってはいなかった。
それだけにゴルシコフ達は自分たちの艦隊が有力だという自信に繋がっていた。
「お待ちください」
しかし異議を唱えた指揮官がいた。
日本人民共和国海軍第一艦隊司令長官猪口中将だった。
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