戦後の佐久田
沖縄戦の後、佐久田は残存部隊を連れて本土に帰還。
第二復員省となった海軍省へ移り、復員業務を行った。
太平洋各地に広がった部隊を迅速に引き上げるのに、全海軍の部隊を把握していた佐久田の能力が必要だったからだ。
だが、迅速に始まった復員業務はすぐに逆方向へ向かった。
再軍備が決まると、将来の幹部を、艦艇の乗り組みが行える人員の選抜を行った。
勿論、支援の陸上部隊も同様だ。
米軍の支援もあるが、人員は日本が出さなければならない。
井上がトップに立っているが、実務は佐久田が行っている。
こうして佐久田は海上警備隊の立ち上げを行う事になった。
その作業も一段落し現在、佐久田は、表向き警察予備隊との連絡将校、事実上、幕僚として派遣されている。
太平洋戦争の戦訓、陸海軍並立状態だと、統合作戦――陸海軍の部隊が合同で作戦行動を行うのが日常的になった状況では害悪が多い。
特に上陸作戦では、海軍が制海権を確保してから陸軍の陸上部隊が上陸するため指揮権の委譲などが煩雑になりやすい。
そこで警察予備隊と海上警備隊はいずれ統合することが予定されており、双方の本部が同じ庁舎内にあり、事実上一体となって運用されていた。
警察予備隊総監の牛島の人格と幕僚である長勇の面倒見の良さ、八原の合理的方策と佐久田の周到さから、運営は良好であり、統合は無事に行われると考えられた。
しかし、その前に戦争が始まって仕舞った。
早急な統合は混乱を招きかねない。
事実上並立して上部で統合運用される事となった。
「あなたがいなければ作戦立案もできなかった」
「この程度の事はお任せください」
太平洋戦争中、常に作戦案を複数立案していた佐久田にとって作戦の立案など簡単なことだった。
しかも、今回は五年もの間、北との戦争を想定していた上、準備期間もあった。
一から部隊を再建するという困難な作業があったが、旧海軍の中でも優秀な人間を勧誘し、米軍の協力もあり無事に上手くいった。
特に、軍備が、戦力育成の根源となる工廠が残っていたことが大きい。
工業生産力を維持する為に残されていた部分もあるが、急速に武器の整備、支給が出来たのは、ドッヂを中心とする経済顧問団の緊縮財政を拒絶し、旧来の工廠を残したニミッツの英断によるものだ。
「しかし、まさか米軍が作戦に参加してくれるとは」
佐久田にとって予想外だったのは、米軍が警察予備隊の指揮下に入ると言ったことだった。
外聞を気にして作戦の指揮官こそパットンとされていたが、パットンは全ての指揮を牛島に任せており、事実上、警察予備隊が指揮を執ることになっている。
パットンの牛島への信頼あってのことだが、佐久田としては米軍に作戦案を提案して取り入れて貰えれば良いと考えていただけに予想外だった。
「それだけ期待されているのでしょう」
「それは嬉しいですが、苦労しますね」
米軍将校の手助けもあるが、少数の幕僚だけで参加部隊の調整や訓練を行うのは大変だ。
特に違う軍から膨大な部隊を抽出し指揮し運用することは。
今回の作戦では主だったところだけでも多くの部隊が参加しており陸上部隊だけでも膨大だ。
警察予備隊からは関西の第三管区隊、揚陸作戦を専門とする米海兵隊を真似て作られた海上機動隊、パラシュート降下を専門とする部隊である空挺団が参加。
海上警備隊からは旧陸戦隊を中核とした臨時陸戦集団。
米軍からは第八軍の歩兵第七師団、第一海兵師団。
そして米本土から来援した第八二空挺師団だ。
特に八二空挺はアリューシャン沿いに空輸され到着したばかりだ。
千島列島を保持したおかげで、輸送機が北太平洋上を最短距離で安全に移動できた。
終戦時千島列島を保持できた成果が生きた形だ。
ソ連の占領下では、輸送機の安全が確保出来ずとても危険で飛行できなかった。
艦隊も海上警備隊から第一船隊群、支援隊群。米海軍からは第七艦隊、イギリスからは東洋艦隊が参加する。
これだけの部隊を指揮するのは、米軍の支援がなければ無理だ。
通信器機の性能と数を見て、早々に米軍規格に合わせることを佐久田が決断しなければ、碌に動くこともできなかっただろう。
米軍将校の手助けが得られたのも良い方向だ。
少なくとも全員が作戦の成功を信じていた。
牛島など少数を除いて。
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