日本人に慕われるパットン
パットンは占領軍司令官として、日本に上陸しても手放しに日本人を、特に沖縄戦を戦った軍民を称賛した。
史上初めてと言える日本の敗北、本土占領という事実の中で打ちのめされた日本人にとってパットンの言葉ほど、慰められる言葉はなかった。
特に東京裁判が始まってからは、強まった。
「あなたは有罪と思いますか、それとも無罪だと思いますか」
「有罪である!」
市ヶ谷に作られた極東国際軍事裁判所の法廷で、東條英機は裁判長の言葉に、力強く大声で断言した。
欧米の裁判において儀式的な問いかけで被告人は無罪というのが慣例である。
東條の弁護士も予め伝えていたが東條はあえて有罪と断言した。
「何故なら、私はこの法廷に立たされているからだ。あなたたちに有罪と言われるために。あなた方が有罪に仕立てようとしているからである!」
逮捕直前、拳銃自殺を図り、失敗し、米兵の輸血によって命を繋いだ東條は国民から一連の事をしらされ、、裁判直前まで見下されていた。
しかし、このあとの発言で、東條の株は上がっていく。
「この法廷は何だ。法的根拠は去年のポツダム宣言における要求によるものである。開戦は五年前の話だ。法の不遡及を崩す、違法なものだ」
「だが日本政府はこの条件を」
「勝者として敗者に押しつけたのであろう。多大な損害を、無辜の民を殺すことで強いたのであろう」
「継戦したのは日本だ。そして、数々の平和に対する犯罪を行ってきた。それは裁かれなければならない」
「平和の罪というのは戦争中に連合国が勝手に作ったモノだろう。どうして連合国のみの決定により私が裁かれなければならない」
「それが合意事項だからだ」
「そのために本土を空襲し焦土とし、広島を原爆の業火でで焼いた。これは明白な脅迫強要行為だ! ならばこの罪を裁くために我々だけでなく、アメリカ側も命じた者を国際法に反する民間人無差別攻撃の被告を、この法廷に立たせるべきではないか」
「責任を回避するために詭弁をろうするか」
「断じて違う!」
東條は大声で再び断言した。
「開戦に関して、私は反対だった。だが、国策として決まったからには命じなければならない。しかし、当時の総理は私であり全責任は私にある。その事から私は逃れるつもりはない。糾弾されて然るべきだ。だが、このような出鱈目な裁判で捌かれるのは嫌だ。しかし、あなた方勝者の溜飲を下げるための生け贄となるのであれば、私はその罪を、他の日本の人々に振り向けられぬよう粛々と受けるものである」
首席検察官も裁判長も、東條の迫力を前に黙っているしかなく、ようやく黙るように言ったが、既に遅かった。
東條の発言は中継されており、翌日には全世界が知った。
日本国内でも反発の声が出ており、検察官、裁判官達は身の危険を感じ、首席検察官キーナンを通じて占領軍に身辺警護を求めた。
だがパットンは
「兵士が血を流して死闘を繰り広げた戦場の後方でのんのんと過ごした連中が、終わった後、勝利者の態で乗り込み、敗者をいたぶるなどアメリカの恥であり、戦った者、全てに対する冒涜だ。事実を指摘され非難されるのは当然である。にも関わらず怯え、守ってくれと我らに求めるとは、呆れ果てた発言だ。自分の身は自分で守れ。自分達が正義だというなら銃弾を受けても貫き通せ。少なくとも、そんなクソッタレを警護せよと部下に命じるなど私はごめんだ」
キーナンに記者の前で面と向かって言ったこともあり、日本人は、パットンの事を更に称揚した。
キーナンはニミッツに抗議したが、内心裁判に不快感を持っていた上、日本人の支持、特に復員したばかりの元軍人の動向、生活の困窮から左翼運動に走る事を恐れ、静観する構えだった。
アメリカ政府も、日本に対する遠慮、東アジアの対東側橋頭堡としての意味合いから、強く出られない。
また、東條が自身に追及を集めたことで、天皇への責任追及を有耶無耶に出来るということも考えていた。
指名されたキーナンにとっては不幸な事だったが、国際政治も絡まった状況では、彼に非難が集まるのは仕方ないと言えた。
ある種、彼も戦争の被害者だが、このような事態となることを見抜けず、対処できない非も大きい。
いずれにせよ、パットンに対する日本人の信頼は、この一件でさらに大きくなる。
パットンは東條のことを
「あんな愚かしい戦争を始めた屑であり、嫌いだ。処刑されて然るべきだ。だがそれは戦場に送り込まれた人々が決めることだ。幾ら勝者でも、その権利を奪うのは恥ずべき事だ。そして、東條は屑で愚かだが、自分の罪を認識し罪を受け入れようとするのは好感が持てる。力を背景に強要する悪党に対して怯まず反論し、戦う姿は男であり勇者だ」
最終的に東條は処刑されたが、パットンの評価に溜飲を下げた日本人は多くパットンを慕う人間は多い。
そのためパットンも、日本人を好んでいた。
再建されつつある日本軍のトップに牛島を推薦し認めさせた位だ。
そして彼等の出した作戦を承認するくらいに、信頼していた。
「では、この作戦は実施と言うことで宜しいか」
「勿論だ。私自身、この作戦に参加したい」
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