反撃計画 天塩上陸作戦

パットンの提出した日本側の作戦は簡単だ。

 北海道への増援は最小限、現地の二個師団、第二管区隊と第七歩兵師団に、新たな二個師団、第一管区隊と第一騎兵師団を送るのみに抑え、彼ら四個師団で北日本軍八個師団を迎撃。

 旭川周辺の戦線を維持。北海道の安定を図る。

 敵が前進してきたところを、敵後方の天塩海岸へ、前線に送らず予備として手元に置いておいた四個師団からなる部隊を上陸部隊として送り込み、北日本の補給線を寸断。

 敵主力部隊を旭川と稚内の間で包囲殲滅するのが作戦の目的だ。

 少なくとも補給線が寸断されれば、敵主力軍の能力は失われる。

 北海道の戦いを優位に進められる。


「かなりの博打になるが良いか?」


「構わない」


 パットンは簡単に答えた。


「上陸するのは、関西の我が第二五歩兵師団、日本の第三管区隊、海上機動隊、空中機動隊。それに呉の海上警備隊特別上陸部隊と第一海兵師団だ」


 原爆の配備と、太平洋戦争での損害から海兵隊無用論が流れ、第一海兵師団は戦後解体される予定だった。

 しかし、上陸作戦を幾度も行い、東アジア、沿岸部を制圧するのに上陸専門部隊が必要という主張から、第一海兵師団のみ日本駐留を許され解体を免れた。

 本国は反対したが、お陰で十分な戦力は用意された。


「合計で四個師団規模、本土からの増援、第八二空挺師団も航空機で到着しつつある。戦力は十分にある。これで連中の補給線を分断し稚内を占領できる」


「上陸用の艦艇はあるのか?」


「それは心配ない。日本側が用意する」


「凄いな、そんなに供与した覚えはないが」


「実は民生用に売った上陸船艇がかなり日本にある」


 米軍の本土攻撃により、日本は多大な被害を受けた。

 特に流通を担う船舶は海上封鎖もあって、徹底的に破壊され日本の船舶は壊滅状態になった。

 戦後、輸送力が問題となり、米軍は余剰となった上陸用舟艇を供与した。

 空母などの攻撃用兵器ではなく、輸送用のため簡単に許可は下り、早速活用された。

 特にLST、戦車揚陸艇は、港湾が破壊された日本の沿岸部で浜辺に直接乗り上げることが出来たため、日本の二等輸送艦、機動艇と共に重宝された。

 他にもカーフェリーや國鐵の鉄道連絡船として利用され、日本の戦後復興の一翼を担った。

 復興しつつある今でも利便性が良いため運用されており、多数のLSTが日本本土にあった。


「アメリカの船員より長く使っているし、日本近海を航行しているので非常に頼りになる。彼らがいれば問題ない」

「何ら問題はないかね」

「戦力的には。ただ一つ、牛島が乗り気ではないようです」

「どうしてだ。警察予備隊が出したのだし、彼はそこの長だ」

「立案したのは海上警備隊の佐久田です」

「彼か」


 沖縄で会談したが、底知れない人物だ。

 だが同時に信頼できる相手である。


「命令すれば全力で実行してくれますが、成功するかどうか、稚内を占領できるか断言できないようです」

「越中島になってから臆病になったのか」


 ニミッツは呟いたがすぐに否定した。

 彼らが、根拠もなく不安を口にするはずがない。


「だが、他に方法はない。作戦を実行するように命じるんだ」


「分かりました。ああ、あと一点」

「何だね」

「攻撃の許可は下りるのでしょう?」

「大統領は直ちに反撃せよと命じているが」

「今度出来た国連の枠組みの中ででしょう。反対で動けなくなりませんか? 安全保障理事会でしたっけ、ソ連も常任理事国に加わっていて、彼らが持つ拒否権を発動するのでは」


 ルーズベルトが構想した国連だったが、実効性を持たせるため世界の大国を巻き込もうと工夫をしていた。

 国連軍を設立し、紛争を解決する実効性を藻耐える安全保障理事会、その常任理事国には大国が任命され、ソ連の強い主張により拒否権、発動すれば即座にその議案は否決される権限を与えた。

 これは、ソ連を国連に加盟させるための引き換え条件だったが、今回ソ連が後ろで操っているこの戦争で発動しかねない。

 国連軍が編成できず、アメリカ軍が出て行けないことも考えられた。


「それなら大丈夫です」


 しかし、明るい声でグルー駐日大使が牛乳を飲みながら答えた。


「ソ連は拒否権を発動しないでしょう」

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