グルー駐日大使

 終戦前後に国務長官を務めた後、グルーは占領行政のため日本への赴任を打診された。

 当初は、友人の前に支配者として行くのは勘弁願いたい、と、かつて十年も大使として赴任し日本に愛着を持ていたため、断った。

 しかし、ニミッツが日本を知っている人間を求めてきた。

 その理由として日本を知らないGHQ職員達の暴走に辟易していたからだ。

 例えば膨大な漢字を覚えられず識字率が低いだろう、だからアメリカとの無謀な戦争に突入したという偏見を元に、漢字の廃止とローマ字化を提案し一時は実行されかけた。

 しかし、事前調査で小学生でさえ、新聞を読める事が判明し中止となった。

 また、アメリカと同様に地方分権、市町村ごとに警察を付けて中央政府の権力を削ごうと彼らは計画した。

 市町村警察計画は実行され横浜市警などの警察が市町村に出来た。

 だが、この政策は失敗だった。

 狭い日本では、すぐに隣の市町村があり、犯人が管轄区域から逃走すると追跡するには逃亡先の市町村警察との調整が必要となり、逮捕できない事例が多発。

 治安は急速に悪化していった。

 結局、都道府県ごとにまとめあげ、中央政府の警察庁が調整する仕組みに変更する事になった。

 一番重大なのは、日本の非武装化を進めてしまったことだ。

 日本軍の脅威を無くすため、また軍部に不満を持っていた日本政府文官が結託して、行った。

 結果、北海道で北日本の浸透工作が行われる事になり、米軍がかり出されてしまった。

 すぐに日本軍の再編に着手したが逆コースと言われ、非難を浴びている。

 しかし治安維持と国境管理、特に北日本に対する対抗手段として日本軍の活用は必要であり、そのためには日本に詳しい人間が必要だった。

 以上の様な状況から、占領統治を円滑に行うためにお日本を知ってるグルーに来て欲しいとニミッツは頼み込んでいた。

 それでも支配者として日本へ行くことにグルーはわだかまりがあった。

 だが、旧友である鈴木元首相から直々の頼みがあり、仕方ないと考え承諾し赴任してきた。

 グルーはニミッツの期待に応え、民政長官として占領行政の手伝いをしていた。

 友人の鈴木の要請もあり、来日したグルーだったが、鈴木と仕事をできたのはわずかな期間でしかなかった。

 すでに鈴木は死病に侵されており、余命いくばくもなかった。

 月に一度、東京に出てくる以外はかつての主の領地、千葉県関宿で療養する以外何もしなかった。

 それでも寿命は伸びず、この戦争が始まる前に亡くなった。

 グルーが飲んでいるのは、千葉県関宿の牛乳だ。

 関宿の人々が困窮しているのを見て心を痛めた鈴木がかつて訪れたデンマークでの酪農法を応用して乳牛を育成することを提案。

 資金を出して作り上げた牛乳だった。

 品質はまだまだだが、鈴木が亡くなった後も人々が改良して品質を改善して東京などに販売してる。

 グルーはそれを毎朝飲むのが日課だった。

 バットもそのことを知っており、揶揄はしない。

 そしてグルーが民政長官であった期間も短かった。

 占領行政に対する対立、新通貨発行によりソ連との対立が深まった。

 アメリカは日本を植民地にしようとする野望があり、これを屈服させると攻撃していた。

 ソ連は占領地である南樺太と北海道北部を北日本人民共和国として独立させ、承認。

 アメリカと違うところをみせ優位に立とうとした。

 完全な傀儡政権だったが、独立承認は行われており、一応の国家だった。

 これに対してアメリカも対抗上、日本の占領統治を終了させ独立させて日本支配の意志がないことを示さなければならない。

 そのため、日本への占領統治終了と主権回復が行われる事になった。

 ニミッツは太平洋艦隊の基地として沖縄はアメリカに併合するべきだと主張したが、完全に返還するべきだとグルーの主張と沖縄に愛着を持つパットンの主張により、承認された。

 米軍基地は残されたが、西側が統治する日本の領域全てが日本政府へ返還され、主権を回復する事になる。

 こうして日本は独立と主権回復が認められグルーは再び駐日大使とされ引き続きニミッツの補佐に当たっていた。

 たが、手続き上の問題から実施はまだ先だった。

 その折に北の侵攻が始まった。


「何故、ソ連は拒否権を発動しない」


 パットンが疑問を示すとグルーは明確に答えた。


「中国の常任理事国問題です」

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