ソ連のボイコット

 戦勝国である中国、正確には蒋介石率いる中華民国だが、毛沢東率いる中国共産党と仲が悪い。

 日中戦争初期も日本の侵攻を前に戦い続けたほどだ。

 途中で休戦し手を組んでいたが終戦とともに関係は再び悪化。

 アメリカの仲介もむなしく、国共内戦が再発した。

 当初は、国力の豊かな南を持つ蒋介石が優位だったが、ソ連と満州国から武器援助を受けた毛沢東が北京周辺で巻き返し、勢力を拡大。

 国民党内部の軍閥へ離間工作を行い、国民党部隊を寝返らせ黄河北方を制圧した。

 一時は長江を渡り南中国へ侵攻しようとしたが、渡河作戦の時、迅速な国民党軍、正確には白団の反撃により撃退され、撤退。

 長江を挟んでの対立状態が続いていた。

 その過程で、ソ連は北中国、毛沢東率いる共産中国が正統な中国であり常任理事国になるべきだと主張。

 勿論、中華民国と欧米は反発した。

 しかし、スターリンは聞き入れられないとみると承認されるまで理事会での審議をボイコットすると宣言し退席した。

 以来、理事会に出席していない。


「出席して拒否権を発動する可能性はあるだろう」


「勿論ありますが、交渉を行う、ボイコットを自ら止めるということになります。ソ連としては外交的に膝を折ったように見られたくないでしょう」


 パットンとニミッツは半信半疑だったが、すぐに報告が入った。


「先ほど常任理事会で国連軍の創設が決まりました。ニミッツ元帥を最高司令官として極東での戦争を終結させるようにとの要請です」


 思わぬことにニミッツとパットンは驚いたが、すぐに喜んだ。


「まさか、本当になるとは」


「ソ連も直接対決は避けたいのでしょう」


 戦勝国となったソ連だが、二〇〇〇万人以上の死者を出した第二次大戦の被害は大きく、ようやく戦前のレベルに回復した状態でのアメリカとの直接対決は避けたかった。

 特に48年のベルリン封鎖、ドイツでの通貨改革問題を端に発するソ連の反発。東ドイツ国内で西側が統治する西ベルリンへの陸上物資輸送を禁止した。

 ソ連の善意を充てにしていたため陸上輸送に関する協定は結ばれておらず封鎖は国際的に正当だった。

実力で排除しようにも米軍は軍縮によりドイツ駐留軍は十万以下となっており、ソ連軍一五〇万相手には手も足も出ない。

 アメリカの力の根源である原爆もファットマン型を五〇発程度しか保有しておらずソ連を壊滅するには不十分であり戦争は避けたかった。

 そこで自由通行が認められていた航空路を使い、西ベルリン市民二〇〇万人へ必要な物資、食料一五〇〇トン、暖房と電力に使う石炭、石油、市内輸送に使うトラックの燃料三五〇〇トン、合計五〇〇〇トンを毎日輸送機で運ぶことにした。

 大戦中、ヒマラヤを越え中国へ物資を空輸する<ハンプ越え>を指揮した経験を持つウェデマイヤーが司令官となり実施責任者にウィリアム・ターナーを任命。

 米英合同の空輸作戦は開始される。

 70機のC47、225機のC54――DC4が一日に一五〇〇回以上の飛行をこなし、四五〇〇トン以上の物資をベルリンに送りベルリン市民を救った。

 ソ連は妨害したが、アメリカの原爆を恐れて過激な手段は使えず、阻止できなかった。

 翌年には封鎖解除を発表し、ベルリン空輸は一五ヶ月で終わった。

 しかし、ベルリン空輸作戦はスターリンに想像以上の衝撃を与えた。

 ソ連軍はレンドリースが終わり、アメリカからの部品供給が行われず輸送機、トラックの稼働率が下がっている。

 一方、米英軍は毎日一五〇〇回以上の飛行を行い、稼働率は低下しなかった。

 輸送機だが、物資を燃料弾薬に切り替えれば、膨大な米軍陸上部隊さえ空輸で養える。

 スターリングラードのドイツ軍以上に厄介な相手になると判断した。

 実際、日本本土に次々と来着する第八二空挺師団は、これらの輸送機をフル活用して輸送され、迅速に到着していた。

 そのため、スターリンがアメリカとの直接対決を避けたがっているという情報が入っており、グルーも同意していた。 

 以上の理由からソ連にとって国連軍の創設は願ったり叶ったりだ。

 米軍の場合は西側の盟主であり、東側の盟主であるソ連も参戦しなければならないが、国連軍ならば、米軍ではない、と強弁し参戦する必要がなくなる。

 とりあえずソ連の参戦は回避された。

 戦争を仕掛けた北の三カ国はハシゴを外された形となりソ連を恨んだ。

 だがソ連にしてみれば衛星国がどうなろうと知ったことではない。

 むしろ、彼らだけで作戦が出来ると言うから許可しただけ。

 失敗したら自分で尻拭いをしろというのが本音だった。


「少数の軍事顧問団を除き、ソ連の参戦はないでしょう」


「少数ね」


 ニミッツは薄ら笑いを浮かべた。

 確かに少数だが、厄介な兵器を持っている。

 だが、ソ連の介入が限定されるのは良かった。


「稚内への上陸作戦は承認する。直ちに作戦を開始するよう伝えるんだ。ああ、そうだ。作戦名は?」


「ブルーハート」


「なるほど、我々が日本の出した作戦を信用できるかということか」


 ブルーハートとは深い友情、深い信頼を意味する言葉だ。


「成功する事を祈るよ」

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