反撃作戦

 守ってばかりでは話にならない。

 ニミッツにとって明るい方向へ向かうには反撃する事で得られると考えていた。

 確かに守っていれば、攻めている敵は息切れするだろう。

 だが、それを待つばかりでは道は開けない。

 せめて、このような事態が再び起きない状況に持ち込む。

 出来れば、南が北を併合するくらいの事はしたい。

 そのためには反撃が必要だった。


「立案は進んでおります。ですが船が足りません。特に海軍の艦艇が不足しております」


 第二次大戦で大量の艦艇を生み出したアメリカだったが戦争終結と共にそれらは不要となった。

 特に戦後作られた空軍と国防省が原爆と戦略爆撃機の組み合わせは最強だと喧伝し、空母機動部隊など不要、経費をドブに捨てるようなもの、時代遅れだ、とアピールした。

 権限と予算を奪うため、新しくできた組織として存在意義を示すべく既存の組織を攻撃するのが常とはいえ、空軍も国防省もやりすぎた。

 特に核兵器を搭載可能な大型艦載機を運用する空母ユナイテッド・ステーツを軍事費削減を信条とするジョンソン国防長官が勝手にキャンセルしたことから、当時の海軍作戦本部長が辞任し、複数の提督達が解任される始末となった。

 結果、多くの艦艇は モスボール処理され予備艦として保管されることになった。

 その為日本近海に展開できる海軍兵力が現役で動ける艦艇、極東海域で行動可能な艦が著しく不足していた。

 そして彼等が万能と喧伝していた戦略爆撃機と原爆は、威力が大きすぎる。

 特に原爆の威力が強すぎて局地戦での使用は悪影響、ようやく理解されつつある放射能の危険以上に、ソ連の参戦を招きかねないとして封じられていた。

 結局、旧来の戦い方、戦略爆撃機の通常攻撃、戦術機による阻止攻撃、機動部隊による迅速な展開しか有効な選択肢がなかった。

 ある意味、海軍と空母機動部隊の有用性を証明する戦争となった。

 だが、開戦劈頭では必要な空母と航空機の数が足りなかった。

 動ける海軍艦艇の殆どは米本土、それも大西洋岸に配備されており、太平洋に配備されている艦艇は少なかった。

 そのうち極東に配備されている数は、更に僅かだった。

 開戦当日など極東にはエセックス級とミッドウェー級が各一隻のみ。

 現在は、本土より増援が来援しつつあるが、それを咥えてもエセックス級とミッドウェー級が各一隻に英国の東洋艦隊の一隻が増加するだけ。

 他は護衛艦艇のみ。

 戦場の殆どが沿岸部である極東戦争において、戦争の趨勢を決める開戦劈頭においてこの艦艇数の不足は致命的であった。

 いや、十分な艦艇があれば、戦力が劣勢だとスターリンが考え、開戦の許可を与えなかった、と主張する一派もいる。

 極論かもしれないが、原爆と戦略爆撃機だけで戦争が止められなかった証拠が極東戦争であり、局地戦で原爆は使える選択肢ではない証明だった。

 だからこそ、ニミッツ達は原爆を使わない通常作戦を求めていた。


「現在司令部では上陸作戦を中心とした反撃作戦を立案中です。稚内に近い天塩海岸、日本海側から船団を向かわせ上陸する予定です。詳細はGHQで説明されます。しかし上陸予定地点の近くに北日本とソ連軍の艦隊かいます」


 旧枢軸の艦艇を接収し急速に戦力を高めているソ連海軍と北日本海軍は恐るべき敵だった。

 特に極東は、満州国の大連と旅順にあるドックから生み出される艦艇群により増強されており、米軍の縮小により、極東では極東米海軍を上回る艦艇数になりつつある。


「北の海軍はソ連からの増援を含め宗谷海峡周辺に展開しており上陸作戦を行うに際し妨害してくることが予想されます」


 艦艇不足は戦力的劣勢を招いており、作戦が失敗しかねない要素だった。

 特に上陸作戦直後に艦隊が突入された場合、大損害を受けることは先の大戦で実証済みでありレイテでウィロビーが上官を失う原因となっただけに避けたい。

 船団の安全が確保されない限り、反撃作戦は実行するべきではないというのがウィロビーの判断だ。


「艦艇に関しては問題ない」


 だがニミッツは不安に思っておらず、安心させるように笑みを浮かべながらウィロビーに言った。


「整備済みの艦艇が呉に集結している」

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