北海道での苦戦の原因
かつての日本軍出身者が多い警察予備隊なら、奇襲を受けても踏みとどまれる。
ニミッツはそう考えていた。
実際名寄の北方で彼らは踏みとどまり、北日本軍最初の攻勢は頓挫した。
しかし、現実には名寄の防衛線も崩壊し、旭川まで退却している。
本来ならそこまで後退する事はなかったはずだ。
「北の浸透戦術です。後方の砲兵陣地が破壊されました」
白兵戦術のイメージが多い日本軍だが、正面突撃は少ない。
むしろ十数人から数十人の少人数で敵の前線を通過し後方へ回り込み、砲兵や司令部、物資集積所を襲撃する。
これは第一次大戦の末期、塹壕を突破出来ないドイツ軍が編み出した戦術であり世界に衝撃を与えた。
日本は、工業力の低さから戦車を大量配備出来ないこともあり、積極的に取り入れ、訓練した。
そのため優秀な下級士官と下士官兵、上からの命令がなくても任務を遂行する自立した将兵が必要なのだ。
日本軍将兵の優秀さは浸透戦術を採用したため、あるいは、するためでもある。
先の大戦でアメリカ軍に対する失敗が多いのは、米軍の警戒網が厳重で、米軍陣地の後方へ浸透する前に見つかり、猛烈な火力を浴びたからだ。
戦後になっても火力が少ない日本軍にとって――米軍の支援が常にあると考えていないため浸透戦術は基本となっており、警察予備隊や北の軍隊で地下陣地構築と共に浸透戦術は基本戦術として教えられているし、防御も考えている。
しかし、北の防備は出来たばかりの警察予備隊の人員予算の制約から濃密な警戒網を作れなかった。
そのため浸透を許し、後方の砲兵を破壊された。
「他にも、北日本の海軍が沿岸部を砲撃し、艦砲射撃で防御陣地が破壊されました」
「厄介だな」
北日本海軍はソ連の侵攻を迎撃するため出撃し大泊若しくは稚内に損傷し退避した艦艇を使って作り上げた海軍だった。
戦後復興したソ連と満州国からの艦艇を送り込まれ、戦力は増強されており、戦争開始直後は沿岸部への支援砲撃を行い、進撃を助けた。。
「日本が作った陣地は、沿岸砲撃にも耐えられるのでは?」
先の戦争で、日本の防御陣地が強固なのはニミッツも分かっている。
短時間で抜かれたのが気になった。
「ここも浸透戦術と後方への砲撃でやられています。前線ではかなりの時間、粘った陣地がありましたが、支援がなく増援もなければ孤立しいずれ陥落します。敵中で未だに抵抗している陣地があるようですが救援の部隊を送れません」
「増援は出さなかったのか」
「北日本の軍隊、合計八個師団は予想以上に強大です。救援に駆けつけた第七歩兵師団は撃退され、撤退しました。ソ連の戦車は侮れません」
ソ連を警戒しつつも、直接対決を避けたい、偶発的な戦闘を回避したいという思いから開戦当日、米陸軍第七師団は東北に置かれていた。
当初第七歩兵師団は北海道駐留だったが警察予備隊第二管区隊の訓練完了、編成完結と同時に北海道か東北へ移動した。
この事も、米軍の介入はないと北が、そしてソ連が判断した大きな要因だった。
しかし、米軍は北の境界線突破後、直ちに出動。
第七歩兵師団は再び津軽海峡を渡って北海道に入り戦闘に加入した。
だがT34を装備する北日本軍を前に、第七師団は手持ちの武器、対戦車バズーカが効かず敗退していった。
戦後の軍縮で定数が大幅に減っていた、緊急出動のため戦車を含む重装備を持たなかった先遣隊のみ、など米軍にとって不利な事情もあった。
だが、米軍には北を侮る風潮があり、戦力を軽んじ、安易に交戦した。
結果、韓国に派遣された第二四師団の先遣隊同様、北の軍隊に撃退されていた。
「それに文民統制が効き過ぎました。日本政府の官僚が軍部の暴走を抑える為、監視と制限を強めたために、部隊移動や弾薬の分配が遅れ、劣勢となり、退却しました」
「パールハーバーと同じか」
太平洋戦争でも、真珠湾奇襲の時、日本機が乱舞していたにもかかわらず弾薬庫の管理責任者は、規則に従い、許可が無いため弾薬を渡さず反撃できなかった。
規則上は正しいが、厳格に適用しすぎた。
すぐに正式な命令が出たため、部隊に弾薬が供給され第二次攻撃隊に反撃し、打撃を与えた。
だが、初動で反撃する非常に貴重な機会を失った。
今回も文民統制、軍紀維持の悪い部分が出た。
弾薬が欠乏し、後方の支援がなくなった日本軍いや警察予備隊の陣地は北の膨大な兵力の前に後退し旭川を占領されてしまった。
現在は第二管区隊と増援の米軍が旭川盆地の東西で防御戦闘を行っている。
「しかし日本は戦時体制へ移りました。現在は警察予備隊も善戦を続けております。これ以上大きく後退することはないでしょう」
事実、弾薬の補給が潤沢に受けられるようになった第二管区隊は、北日本の進撃を止めていた。
「増援も東京近郊の第一管区隊から次々と送られています。勿論、関東駐留の第一騎兵師団も向かっています」
戦線を安定させる為に関東に駐留していた第一騎兵師団を米軍は投入している。
昨今、定数割れが多い米軍の中で、第一騎兵師団は貴重な戦力であり、投入するのが惜しいくらいだ。
だが必要な処置だった。
そして、ニミッツが気になるのは防御ではない。
今後の作戦だ。
「それで反撃作戦の方はどうなっている」
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