中国の戦況
「中国は蒋介石が少々劣勢ですがなんとか持ちこたえられるでしょう。揚子江の防衛線は崩れていません」
ニミッツにウィロビーは中国の戦況を伝えた。
第二次国共内戦で揚子江の北側を毛沢東に奪われた蒋介石だったが揚子江を防衛線にして立て直すことに成功し抵抗していた。
渡河に失敗した毛沢東はイタズラに犠牲を出すことを良しとせず、確保した中国北部で国力増進に注力した。
しかし、中国統一を標榜する毛沢東に対する不信、国民党を下せないことに不信感が向けられていた。
かつての領土である満州を、ソ連から奪い返せないことも大きい。
満州は中国領と主張し返還を交渉したが、満州国を独立国として認め共産陣営に迎え入れたソ連は面子もあって中国の申し出を却下した。
その分、ソ連と満州国から援助を受けていたが、物乞いのようで共産党員のプライドを傷つけた。
また、国民党の戦力回復、白団や特例で残った日本の武器工場から送られてくる装備によって増強された国民党軍を脅威に感じており、いずれ、侵攻できなくなる恐怖を抱いた。
侵攻できないどころか、逆に揚子江を渡って北中国に攻めてくる可能性もある。
極東戦争に毛沢東が参戦する事を決断した理由は以上のようなものだった。
こうして北中国も攻撃に加わった。
米軍の介入があっても、米本土に近い北海道か、半島方面だと考えており、時間が掛かるだろうという計算があった。
また、国民党内部への工作、国民党を構成する軍閥の切り崩し工作がある程度上手くいき、橋頭堡を確保出来る目算が立ったためだ。
かくして、北中国の攻撃が始まった。
南中国の防衛線を担っていた軍閥が寝返り、橋頭堡を確保され一時は危険となった。
「上手くしのげたようだな」
「国民党軍は旧日本軍顧問団、白団の支援を受けています」
旧日本軍支那方面軍を主体とする日本人軍事顧問団は国民党軍が近代化のために残すよう依頼して出来た部隊だ。
当初は、戸惑った日本軍だが、反共のため、日本に帰っても職がない事から将校や下士官を中心に参加。国民党軍への教育を開始した。
当初米軍は良い顔をしなかったが、ソ連の脅威と赤化ドミノを前に支援へ転換した。
中共内戦の中盤から彼等が教育した部隊が続々と前線へ送られ揚子江での防衛に成功。
北中国の南進を防ぎ膠着状態を作り出した。
再びの侵攻に対しても彼等は出撃した。
寝返った軍閥に対して空爆と迅速な機動によってすぐさま橋頭堡を潰し、北中国軍を閉じ込める事に成功。
出血を強いている。
既に北中国に勝機は無かったが、渡河成功を宣伝していた毛沢東は引くに引けなくなり攻撃を続行。
損害を顧みない共産党の猛攻撃が続いていた。
だが渡河地点の周辺を猛爆撃と猛砲撃で叩き潰し後続部隊と支援部隊を破壊して前線を孤立させる戦術で国民党軍は侵攻を遅らせることを狙っていた。
一部では再び上陸され橋頭堡の構築を許していたが、突破は許さず共産軍に出血を強いる事に成功していた。
「中国は国民党軍に任せておけば良いだろう」
安定した戦線があるのは嬉しい。
数少ない米軍を割く必要が無いからだ。
少なくとも国民党軍は信用できる部隊に成長した。
太平洋戦争中に活躍して日本軍を撃退して欲しかったが、それは望みすぎだ。
「物資の援助は行うが、米軍の派遣は行わない。本土までの補給路確保の為に北海道を優先する」
「妥当でしょう」
ウィロビーも同意した。
国民党軍は現状でも十分に戦えると考えていた。
少なくとも、米軍の援護無しでも劣勢に陥ることはない、と思える程度に。
「それで日本は?」
最も重要な日本の事をニミッツは最後に聞いた。
「名寄の日本軍、いえ警察予備隊の部隊が善戦しました。創設されてから公共事業名目で地下陣地の建設を行っていましたから反射面陣地を使い粘り強く防戦しました」
ニミッツはウィロビーの返答、日本軍、いや警察予備隊の善戦に満足していた。
戦後の混乱と敗北のショックで戦争放棄と旧軍解体を宣言した日本で、再び軍隊を作り上げるのは米国でも、日本の国民も不満に思っていた。
そのため、GHQは警察に対処できない非常事態に対応する組織、軍隊ではない部隊、警察予備隊を治安維持名目に作り上げた。
彼等は、重武装した組織、独立を認めていない北日本の軍隊を相手にすることを想定して作り上げられた。
人員は政府の求めで一部を内務官僚、警察幹部が送られていたが大半は旧日本軍出身だ。
先の大戦で艦砲射撃にも耐えた日本軍の防御をニミッツは高く評価していただけに、奇襲を受けた後、ねばり強く戦ったのは満足のいく戦いぶりだ。
同時に腑に落ちない。
「それだけ防御を固めて何故、突破され旭川になだれ込まれた」
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